作品Ⅱ


ゆつさゆさ満ちたる重さにあしたより白木蓮は花捨てゆくや            森暁香

わが村は梅に桜にすみれ花一気呵成に春となりたり                伊藤宗弘

ポケットに差せばスマホは重たくて薄地のエプロン片方ずれる           松山久恵

近づけばこはれてしまふ夢に似て遠く穏しく漁港しづもる             秋元夏子

夫も逝き子供も去りて独り生き耕す畑は菜の花ざかり               福井詳子

方言を学びし動機は短歌とか不明の語義を古語に辿れる(「簑島良二さん」)     奥野耕平

外敵を躱しながらの餌やりを見つつ在京の子らを思えり              苔野一郎

春風に樹々はゆれいん青空のかなたに山はわれの古里               木本あきら




作品Ⅲ

「人脈はあるか」と聞かれ友の名の思い浮かぶもただ躊躇いぬ           深串方彦

小さき頃迷子になりしトラウマか夢に出で来る見知らぬバス停           山家節

レンタルのベビーベッドを組み立ててきみを待ちたる暮らしがあった        池田郁里

きのうまで娘のおなかにいたくせにひとえまぶたの大きな瞳            高木啓

一羽のみ残れる鴨か水際に立ちてしきりに羽を繕う                横山利子

山霧を吸えば肺から逃げていく両耳の熱のみを残して               佐巻理奈子

東京は二次元だからアジサイの祭りの知らせが駅の柱に              狩峰隆希

ほんとうにここにいるのとささやけばふるりと尾びれ翻す音            塚田千束

「ママはね」と膝に抱きたる仔うさぎに声かけてみる一人の午後に         杉本聡子

茗荷をもハーブと聞けばわが庭も見やうによれば宝庫と変る            田辺百合香

コンビニのファミチキ食べる こんぐらい手軽な信仰僕に下さい          久納美輝

咲く花のひとつひとつが笑い顔寄りてよく見よ百日紅の花             福田夏子

あっけなく人は壊れるハイチュウを食べたくらいで銀歯が取れる          藤田美香

夜をとおし渡りて来くるつばくらめ十八グラムの体力おもふ            浜田真実
    ※ 「とおし」は「とほし」の誤植です。申し訳ありません。

白蓮の花びらはらり落ちてゆく遠き記憶の剥離のごとし              樋口千代子

 

(む)