雨やみて薄日の差せば葉のかげゆ生れしごとくに蜆蝶たつ 秋元夏子
捨て畑(はた)の草の中なるミニトマト熟れて怒れるごとく弾ける 袖山昌子
夜目遠目みな笠の内あでやかに「おわら」を踊る娘(こ)らうつくしき 奥野耕平
空の雲ながめて痛み忘れたく天使をさがす雲の流れに 香川芙紗子
妻多恵が住まひしといふ部屋のうち畳まれて堀の白きセーター 森暁香
明るさを我ほめられてそうなんです戦争が終って生れました 坂田千枝
根元より切り離されし椴松(とどまつ)のゆうらり吊られて身の置きどころなし 熊本郁子
たはやすく筋力増ゆるはずもなくなどと言ひつつサドルを跨ぐ 塚澤正
メモ欄に記しし「正」の字が並び妻は何かを数えたらしい 矢澤保
充分に生ききりました柿の木の陰にぽつりと仰向けの蝉 門間徹子
土付きのじゃが芋どさりと玄関にミミズのおまけも友は忘れず 田村郁子
軍馬用乾草作りが宿題の夏休みありき 草の道ゆく 加藤悦子
精霊馬たれを乗せしか茄子の背にふかく刻めるたてすじのあり 宇佐美玲子
枯れ蔓と繁りすぎたる樹の整理したるを良しとしいざ入院せん 井上成子
夕暮れに風運びくる稲の香かレースのカーテンまろやかに揺れ 小澤光子
これという掘り出し物も見あたらず肌着、佃煮購ひ帰る 藤森悦子
糺の森時間のなかに根を張りて風や月とも会話せしかな 岩本史子
「おひつ」とはなつかしきかな遠き日のわが家の夕げ思い出(い)ずるも 佐藤正光
居酒屋を出れば六日の月が出て太めの少女のように微笑む 佐伯悦子
電話アンケート「声が若いネ」と言はれたり「声だけね」と答へ今日は涼しき 大田綾子
なかなかに覚えられずにメモをとるガンバライジング、カメンライダービルト 齋藤冨美子
臨時収入ありとほほ笑む友たちよ三万円(さんまん)呉れしは総理に非ず 牧野和枝