青空の底突き破り地を撃ちしリトルボーイは八月の季語 上野昭男
南溟の果てこうこうと照る夜半の何ともわかず夢に立つ影 入江曜子
月末にいつも死にたくなるきみも老後のことを考えている 高木啓
言うことを聞かぬかぼちゃのつる叱る伸ばすばかりが能ではないと 山本吉成
宝くじ買いて神社へ立寄れば鳩は一斉に我を囲みぬ 山家節
細き道曲がりて登れば真実の眼で見ているウメバチソウの花 馬場有子
四拍と聴きてしなほす夕闇のせまる大社に頭(かうべ)を垂れて 岡野哉子
単身の家では掃除・洗濯がうまくできればそれもうれしい 福留義孝
部屋隅のざしきわらしは日の暮れをゲームにふける時に声上げ 西野妙子
山間の小さき橋をわたる汽車あんずの里に花咲ける見ゆ 野口民恵
街角の監視カメラに何となく笑顔を見せる後ろめたい日は 奥寺正晴
溝ができ溝うずまりて今日の卓隣家の猫の噂に笑う 立石玲子
うなりつつ満タンを告ぐ除湿機の水の重さに体力試す 牧坂康子
化粧水ひたすコツトンふくらみて私を潤すためだけに来て 塚田千束
父の忌の遺影に向かひ来し方を語りかけては冷し酒酌む 浜元さざ波
入居者の最高齢の百五歳患ふ我に頑張れと言ふ 今井百合子
空襲に公会堂の階段を駆け下り靴を無くしし彼の日 合志祥子
亡き父を連れて来たりし真珠湾ただそれだけの孝行なりき 新藤雅章
かなかなは摩文仁の丘に鳴きつづく沖縄悲し六月二十三日 諸見武彦
これまでに人に優しくできたろうか バスから見える街にさよなら 山田ゆき
納骨堂が見えてたちまち過ぐるまで心のなかで父に手を振る おのめぐみ
やりたいこと見つかるといいね真夜中に食むアルフォートが喉に生む熱 佐巻理奈子
飼いもしない猫の呼び名を先に決め生まれる子の名いまだ決まらず 池田郁里