おおいなる空とつぜんに現れてマンション建設予定地に月   富田睦子

 

 

画面から顔も上げずに次の道、渡つたら右に行くよと君は   田口綾子

 

 

マンホールで蓋すれど濁流音激し我も今そんな顔をしてゐる   立花開

 

 

照りつける西日の舗道に動かざるムカデが地表の紋章となる   田村ふみ乃

 

 

二年前サプリメントを馬鹿にした父の机に<しじみエキス1000>   広澤治子

 

 

ぞろぞろと孵化したように人群れは傘を開いて駅から散らばる   宮田知子

 

 

換気扇壊れトイレの窓開けるいつ入っても閉められている   山川藍

 

 

看板に言葉に街はくるおしく埋めつくされて きみを思えり   米倉歩

 

 

謝れぬ人らあつまり暮らすこの家に入りくる白雨の匂い   浅井美也子

 

 

ぽつねんといよいよなりてよばれたり梢という字は特殊だそうで   荒川梢

 

 

エデンの園の呪い限(き)りなしおはじきと孔雀の石と蒐めておんな   伊藤いずみ

 

 

いつの日か思い出となる日もあらむ吾子の手にぎりて中山図書館   大谷宥秀

 

 

歩けぬと言い張る姪を背に負いてアピオスの花嗅がせてやりぬ   小原和

 

 

工事のためぬるくなりたる水道水雨の降る日はわずかに冷えおり   加藤陽平

 

 

豚ロース塩麹焼き 縞ホッケ 茄子のグラタン 読んでいるだけ   北山あさひ

 

 

成長についていけない父親と子にも等しく花火は上がる   木部海帆

 

 

幼子が「ミサイルマン」と呼ぶ人は迫真の菅官房長官   小島一記

 

 

われを抱く腕二本の空間にかつて妻とうひとの香りす   小瀬川喜井

 

 

着ては脱ぎ脱いでは着るをくり返し人となりゆく秋のいきもの   後藤由紀恵

 

 

夕焼けのようなる黄身か 黄身のようなる落日か 甘く重く落つ   佐藤華保理

 

 

音がひとを弔ひやまずきらめきを散らしながらに鳴る爆竹の   染野太朗