第62回まひる野賞は、大内德子さん『メビウスの道』、浅井美也子さん『しまいゆく夏』に決定しました。掲載された30首からいくつかご紹介します。

 

 

『メビウスの道』   大内德子

 

鯖色の海のやうなるさびしさの夫の眼に目薬おとす

 

首の根にホットパックをしてやれば眠る他なき顔のさびしさ

 

目も耳も鼻も口はもある石を掌にとりて見る潮騒の海

 

はじめから位置の定まる雛飾り見つつ恨めし口にはせねど

 

車椅子押されて戻る下向きの夫にさくらの花ふぶきせよ

 

 

 

『しまいゆく夏』   浅井美也子

 

足たかく掲げ寝がえりする吾児のえがく半円きょうから夏だ

 

楽しいといわねばならぬ幼な児と公園に砂の山つくりゆき

 

柔らかきところ磨り減るわが体にああこんなにも低き声でる 

 

私が、あなたの母であることに大きく赤く×(ばってん)をうつ

 

大丈夫と問いあいながら過ごしいるまだ安定期に入らぬ家族

 

 

 

大内さん、浅井さん、おめでとうございます。