まあ所詮思い詰めても会社だし会社が会社に領収書切る   高木啓

 

 

春昼は時に淋しもあてもなく街の雑踏に紛れゆきつつ   松本いつ子

 

 

あと一分待てぬ脱水いらつきて父の血筋は随所に現る   山家節

 

 

見よがしにカールビンソン移動するおやき食みつつTVに見おり   菊池和子

 

 

ほんのりと桜色へと変化した子どもの頃のカラーの写真   杉本聡子

 

 

思い出をこのままにして手放すや外階段の錆を撫でいる   瀧澤美智子

 

 

「天皇賞キタサンブラック一着」と時間をかけて母は書きたり   おのめぐみ

 

 

お互いの言い訳ばかり聞いていたメロンソーダの泡消えるまで   棚橋まち子

 

 

新しき子供の自転車競ひ合ひ五月の光を放ちて走る   茂木久子

 

 

サルビアの紅き花びら零れても競り売り続く花市場かも   打田剛

 

 

とおくより見れば塊 掴んだら粘土みたいだろうなあの河馬   佐巻理奈子

 

 

窓口で詐欺ではないかと問はるるも老婆は怒りて目を剥きてをり   小嶋喜久代

 

 

もう少し褒めればよかった庭中の草をひいたと自慢する母を   黒澤玉枝

 

 

公園に雑布をもつ人に会ひ椅子拭く仕事あるを知りたり   谷蕗子

 

 

試着してくるりと回るワンピース想い出のなかのわたしに帰り  伏島佐恵子

 

 

鯛飯をうましとうから喜べば我もよろこぶまだ役に立つ   塙宣子

 

 

ろうそくの灯りちりちり乱れ燃ゆこれはあやしと目をこらし見る   荒岡恵子

 

 

玄関の靴がどんどん減ってゆく孫が履いては裸足で戻る   服部智

 

 

出がけには洋傘さして帰りには忘れて帰ることの度々   平澤照雄

 

 

父と次男些細なことに口論し止めに入りし長男巻き込む   小野喜美子

 

 

思い出の一つとなりき秋の陽にだいこん洗う母の背中は   野口民恵

 

 

母われがすべてであった頃の子の泣き顔今も目に浮かぶなり   野田珠子

 

 

しやうしやうと髪梳く音もいつか絶え桜の闇に山姥眠る   津幡昭康

 

 

ユニゾンのギターのように白球を追いかけていくレフトとセンター   山田ゆき

 

 

あざやかな羽をしづかに零しつつ孔雀おまへは誰を愛すか   塚田千束

 

 

普段より弾かぬくせしてもうピアノあきらめようと火傷を見やる   池田郁里