完解は完治にあらず紫のアヤメは黙ってゆうらり揺れて   大谷宥秀

 

 

白熱灯のような肋骨真夜中のPC画面に浮かびあがりぬ   小原和

 

 

紫陽花の花毬ついて遊ぶ手をふいにつかめば雨の匂いぬ   浅井美也子

 

 

生成り色に明朝体で刷られてて読めた気がする古い歌たち   荒川梢

 

 

目玉焼き焼いたらちょうど真ん中に黄身くるような幸せ 破れる   伊藤いずみ

 

 

今日風呂に入るは私と母のみと思えば何やら心中めくなり   加藤陽平

 

 

さるの子の額に春の陽はとどく君には君の野生あるべし   北山あさひ

 

 

こもりうた歌わなくなっても少年のゆりかご揺れて夜映しだす   木部海帆

 

 

悲しみは涙ばかりが示すとは限らず時折液体の笑み   小瀬川喜井

 

 

はじまりはまず神が手を差し伸べてあおきスラヴもそらみつ大和も   後藤由紀恵

 

 

空にかえるころもはなけれウェス2枚に排水口の油をぬぐう   佐藤華保理

 

 

大宰府にわが祈るべき何もなくゆつくりと、ゆつくりと頭(かうべ)垂れたり   染野太朗

 

 

初冬の浴槽みがく 水が揉む私といういつか消えてしまう影   立花開

 

 

月光がつぶさにさらす床の瑕動線みじかき二脚の椅子の   田村ふみ乃

 

 

夏至という響き濁りてあかるきを四十代と思う 夕映え   富田睦子

 

 

矢澤さんも晴れ男だと知らされて気分も晴れだアクセルを踏む   広澤治子

 

 

木漏れ日が波の揺らぎのように君の後ろ姿を遠ざけている   宮田知子

 

 

出勤簿ファイルに押した山川が市川さんの来年につく   山川藍