梅田ではしらふの若い男性がいきなり道路標識殴る 山川藍
反抗と素直が混ざりあう吾児の尻をたたけり 青糸の雨 浅井美也子
午前四時を流れる身にはなりたくない すしざんまいの看板あちこち 荒川梢
太古の虫が悪夢をじっとやり過ごすように身体を丸めて睡る 伊藤いずみ
君のためことこと煮たる肉じゃがを静かに見つめる夜も時にあれ 大谷宥秀
父去りしのちも隣室のハンガーはゆれておるなり久しぶりの雨 加藤陽平
亡父(とう)さんを「アレ」と呼ぶとき母さんの心の剣の閃きはある 北山あさひ
田子の浦静岡県の札なれば富士のふもとのあの部屋想う 木部海帆
棘のなき花いけたりし玄関に宗教勧誘する人長し 小瀬川喜井
永遠を待たず五月のそらまめの莢ふくらみてゆくを手に取る 後藤由紀恵
螳螂が螳螂をたべ はるさきにみどりあふれる子螳螂なり 佐藤華保理
総数は少ないけれどそのひとつひとつが濃くて父の感情 染野太朗
あの星に住もうと君の覗きいし望遠鏡の倍率を上ぐ 田村ふみ乃
契約のはざまに産みゆく女優らの生き物として勁きを愛す 富田睦子
春が来た さようなら咳 さようならお粥 おかえりカレーライスよ 広澤治子
窓からの光射しこむ君の頬に君の発する光も呼応す 宮田知子