電脳は無数の銀河に連ならず地平に寒く人とつながる 加藤孝男
若き日の蒸したご飯の湯気のよう畑のしらうめ野放図に咲く 市川正子
おおははの機織る音がきこえます春雪ほんのり窓明るめて 滝田倫子
巣箱の内湿りてをらむ今朝の雪三月といふに勢ひありて 小野昌子
有縁(うえん)なるや無なるやは知らず丈高き同姓の墓が磨かれ並ぶ 寺田陽子
肩書も仕事もなくて樹によれば雨降るやうにさくらはそそぐ 麻生由美
まだ少し、やつぱり生きてゐたいです痛みの去りし人の呟き 升田隆雄
ようように平穏戻る如月か梅香りくるわが小田原は 齊藤貴美子
船名を読まんと双眼鏡にみる舳先の小旗が千切れむばかり 松浦美智子
金策の尽きたることを自嘲せる口調も軽しこの弟の 高橋啓介
コーヒーのスプーンを持つ手が怯む昨夜(ゆうべ)に爪を切らず眠りき 久我久美子
亡き夫のなせしごとくに休み日を息子は幼とボール蹴りあふ 庄野史子
この赤児のやはきお腹に二百万卵(らん)のあるとふ会ひたしその児 柴田仁美
出雲国風土記に出でし名に惹かれ「鬼の舌震(したぶるい)」の谷に入り行く 中道善幸
参道の千古の杉に抱かれてうつし身はいま古代に還る 西川直子
機動隊はた警察に囲まれて高江を守ると立ち上がる人 小栗三江子
歌会の席にてわれら黙祷す六年目の今日は三月十一日 岡本弘子
脈をとるナースのうしろの窓のそと大きくうねる暗き海見ゆ 岡部克彦
目に追えば先の見えなき道のあり木立のむこう日の落ちてゆく 吾孫子隆