涸れがれて川すぢ細くなりにけり凝縮されし二月のひかり 森暁香
やはらかな日差しに芹摘む老夫婦ふはりと匂ふ籠のさみどり 袖山昌子
美容室出れば淡雪ひらひらり変身したてのわれに寄り来る 佐伯悦子
をさな児に森のくまさん歌ひつつ熊に似てきし君が頬を撫づ 門間徹子
屋根雪の折おり落つる音のして節分近き夜を毛糸編む 加藤悦子
えびのごと布団の中にまるまりて温まるまでのわが体勢は 大山祐子
隣席の若きがずーんと寄りかかり新宿駅まで鼾をかけり 飯田世津子
くちびるを噛みて佇む相撲取り負けて憤怒の貌うつくしき 稲村光子
「目の中のごみを取って」と夫に告げあえなく夢より覚めてしまいぬ 井上成子
冬の日のつれづれなるまま古毛糸集めて編めば母のたちくる 福井詳子
横浜のシュウマイの味よみがえりスーパーの棚にしばし見ており 東島光子
春風に旗なびかせる円形の侍塚は三つ並べり 苔野一郎
陽に落つるつららの雫光りつつ春のリズムとなりて落ちくる 横川操
痛む膝を引きて歩みぬ八十年支えてくれし取り替えもなく 齋藤淑子
手術傷を心中未遂と言い募り時々我は夫(つま)を笑はす 坂田千枝
去年(こぞ)逝きし友の多かり寒中の見舞ひをみれば老い慌し 阿部清
あまおうとう大き苺のうまかりきこの満つる世に父母のなき 里見絹枝
痛くない背中さすらるる繊き手をふり払ひたし傲慢なれど 貴志光代