吹き返す風にさらはれ今鳴いたカラス笑つてもつと笑つて 秋元夏子
子と住むは一軒だけのこの界隈老いて清しくみな体操す 森暁香
蒼はそら青はみずうみあおの間を風に向かいて飛ぶ白鷺は 宇佐美玲子
カサゴのやうな屋根を乗せたる霊柩車 雨の町なか走り去りたり 松山久恵
夜の廊下這いてトイレに行くわれを誰も見るなよトドに似たれば 加藤悦子
ぐみの葉をひるがえし吹く冬の風その先に咲く水仙の花 里見絹枝
床の間に生けし椿の花ひとつぽとりと落ちるいとおしきかな 大本あきら
音もなく一夜降りつぐ雪なれば赤き車も白く包みぬ 稲村光子
新春を寿ぐ様に数多なる白鳥どんぶらこ川上に向く 大山祐子
ハッピーな初夢見むと床につくがデパス一錠で深く眠りぬ 坂田千枝
呆けしと人は言うらん飼い猫に呼びかけ癒す生き方もあり 福井詳子
冴えわたる師走の空に雁の群ひらがな文字を描きつつゆく 袖山昌子
三十キロの玄米精白せんとして夫とわれの全身全力 熊谷郁子