かすみくる眼はわれのもの運命のままにといふは闘ふの謂(いひ)   橋本喜典

 

 

なかぞらの暗みそめたる庭に立ちわが身に享(う)けむ風花を待つ   篠 弘

 

 

いつまでを此岸にあそびときおりに彼岸を思う罰当たりわれ   小林峯夫

 

 

長崎は殉教の町被爆の地夜は灯りが海へなだるる   大下一真

 

 

たつぷりと太れる牡蠣を啖らひつつ泣きたいやうな心と遊ぶ   島田修三

 

 

ジャカルタに夜は来たりて「カネくれ」と目見(まみ)濃き子らを見捨ててぞゆく   柳宣弘

 

 

荒々しき自衛隊員のあぐる声由紀夫に投げてその後を聞かず   中根誠

 

 

両の掌に載らむほどなる仏の像家また家へ木喰残しき   柴田典昭

 

 

家族など歌うなと言のつよかりき若竹しなう七十年代   今井恵子

 

 

兄弟にして新刊と古書それぞれに店を商う弟が古書   醍醐和

 

 

秋楡の上枝下枝(ほつえしずえ)と色を増し失くしたハンカチふいに浮かび来   圭木令子

 

 

風の私語聴きつつねむる冬の夜を折おりわたる白鳥の声   中里茉莉子

 

 

指をもて珊瑚水木を撓めゆく明日は野放図にもどると知れど   曽我玲子

 

 

守るべきひとりの在れば時かけて煮含めてゆく信子流おでん   小林信子

 

 

輪の中へ富士山を入れ縄飛びをする吾娘(あこ)ふたり調布の丘に   大林明彦

 

 

たくさんの実をありがたうひと本のオクラを倒す霜月の夕べ   鈴木美佐子