アレッポは砲弾に潰えこの里は弾も受けぬに滅びんとする 上野昭男
Yogiさんはヒジャーブ脱ぎてしなやかに瞳に強き光浮かぶる 八木絹
給料の安いことなど身も蓋も無いことを言う散文の妻 高木啓
雨戸にはひと癖あれば記しおくややに持ちあげ一気に押すと 菊池和子
バス停にわれを送りて帰りゆく夫と互(かた)みに片手を挙ぐる 高志真理子
座布団の父の凹みに陽の射して花梨の葉の影ゆっくり遊ぶ 服部智
方角で一番いいのは南だと言うから枕は南でいいの 平澤照雄
車窓よりペダル踏みゆく僧見えて夫との会話の糸口となる 牧坂康子
夕陽うけマンホール七つ輝けり宙へと到る飛石のごと 坂井好郎
優劣を見せて芒の原にあるパンパスグラス、アルゼンチンの草 岡野哉子
すじ雲が霜のようにこびりつく空の直下で冷えるコスモス 山田ゆき
お掃除の小林さんが薄暗い廊下で手のひら開けば飴玉 左巻理奈子
てんぷらにすれば美味(うま)しと教へられ秋の茶の芽と花を摘みたり 谷蕗子
徘徊ではないと一言メモ残し今宵の祭りの花火見ている 諸見武彦
濡れ布巾の上に替え置くもみじの葉息吹くように広がりてゆく 大葉實子
捨て鎌を研ぎて繕う些事にさえ近ごろ縁なきよろこび覚ゆ 山本吉成
はなびらをちぎる代わりに粉雪を吹いて占うこどもみたいに 塚田千束
「ハンブルグ」交互に声に出しながら買い物かごを揺らしてあるく 池田郁里