浴室に手摺を付くる若者は高さ測るとわれに握らす 橋本喜典
庭先にあまた欅の葉が積もり焚かむおもひに襲はれてゐる 篠 弘
納得の数値でるまで血圧計ボタンを押して目つぶりて待つ 小林峯夫
逝けるもの育ちゆくもの母の忌に抱けば孫なるもの手に重し 大下一真
むかしだが酒に量なき滅法を夜ごと生きにきあはれあはれ肝 島田修三
路地裏を帰る夕暮れ寒いから甘酒煮るといふこゑを聞く 柳宣弘
靴底の踏みたる銀杏著き香の消えざり犯ししミスは負はねば 柴田典昭
手の内を見せてならぬというごとく空を指差しああっと言った 今井恵子
自任せるクラシックおたくジャズおたく絵葉書おたく聖母子おたく 岡本勝
温度差は計り得ずしてぬるま湯はぬるま湯なりと両手を浸す 圭木令子
手のひらと洗えばひったり二枚貝となりゆくわが手現し世の海 中里茉莉子
乱暴なる字なれど楽しき葉書来ぬ幾度も読みてにやにやとする 西尾芙美子
加湿器を「この子」と言ひつつ荷をほどき説明をする若き店員 平田久美子
レストランの電飾灯が七階より地上に垂れれば昇る気失せたり 亞川マス子
立冬を冬至と間違へ手に入りし柚子をあちこちに配りし粗忽 樋川道子
とどろきて優勢告ぐるスマホニュース鈍き湖面の鉄橋わたる 曽我玲子
弾む日と落ち込める日と怠惰な日繰り返しつつどっぷり老ゆる 川口二三子
永らうる母も寂しや友という友ことごとく彼岸に在りて 中畑和子
神様は居眠りがちと聞いたので鈴を鳴らして起して賽銭 関本喜代子
散る力みせて咲き継ぐ力増すさざんくわの木の花のゆたかさ 大林明彦