十一月の過ぎゆき早くあと三月(みつき)超ゆべき冬へ覚悟のうごく 橋本喜典
てのひらを重ねるごとく朴の葉に味噌を挟みて焼く者となる 篠 弘
十年はしゅゆの間なりきこの調子これから十年生きられそうな 小林峯夫
咲き残る秋明菊のほの白く揺りて日暮を見えぬもの行く 大下一真
誰もかれも正しいことを言ひつのり冬ひんやりと脛にまつはる 島田修三
うら若きゲリラのをみなの携ふるカラシニコフに秋風ぞ吹く 柳宣弘
うら若き女性兵士の訓練をテレビに見入りやがて苛立つ 横山三樹
足の裏二十三・五センチのわれの背のびは七センチほど 井野佐登
目薬の甘さが違ふ越中の薬屋の出すものはことさら 中根誠
年齢に合ふ打法へと変へゆきし決断を言へり中日の和田 柴田典昭
日の暮れをポピー畑に雲雀あがり並び仰ぎぬまだ家族あり 今井恵子
身を絞り身を捩りつつ小さきへび秋明菊の根方に入りぬ 曽我玲子
孫五人曾孫三人になりましたあなたの知らないひまごかわいい 北村千代子
秀の高さ保ちて突風に耐へつづく噴水をみてひとり合点す 大林明彦
はみ出さむばかりの炎に春を呼ぶすすきが原の野火の絵手紙 井上勝朗
少しだけ呑みし梅酒にふわふわと手をつきながら階段上る 齊藤愛子
肩先に疼き覚ゆるこの夕べ萱草いろのストールかくる 前田紀子