真夜中に屋根打つ雨の凄まじく寝返り打てば傍らに猫 矢澤保
冷蔵庫にピンナップされた絵はがきの帆船 銀河の海航りゆく 伊東恵美子
白き花はらりと落ちたる雨の朝秋の扉が音なく開く 井上成子
ひもじいかさびしくないか放たれし山羊見て思う生きるということ 金子芙美子
ブロッコリーの花蕾にひそむ青虫よ少しは遠慮をして下されよ 鈴木美佐子
一人居は巨峰四粒を食みながら螳螂もいて望月を待つ 菊池理恵子
しろじろと葛の葉裏を見せながら風はひそかに秋運びくる 横川操
朝ドラも料理も笑点も録画してわれのリズムに組み込みて観る 塙紀子
吾亦紅われも紅なり朽ち紅を風にさらして野づら歩めば 宇佐美玲子
背戸にある駅の空地の除雪車にイルミネーション点く降誕祭 平林加代子
百日紅散りて季節は移りゆく南部風鈴こよひ外さな 庄野史子
草陰に鳴くこほろぎの声澄みぬ 夢は一瞬の永遠なりき 関まち子
望む球投げられなくて捕れなくて炎天の草の上に灼けゐき 貴志光代
山道に耳飾りかと拾いみる熟して落ちし山法師の実 相原ひろ子