いえいえと軽くかわしてなんのことだったか不明 もう一度聞く   山川藍

 

 

出来ないと言い返すしか出来ぬこと君に言われて少しうれしい   荒川梢

 

 

地下二階秘仏のように蔵(しま)われてミドリ安全分煙機坐(い)まする   伊藤いずみ

 

 

イオンへの道の植え込みに二つ折りの将棋盤すててあり夏の昼   加藤陽平

 

 

抱きしめる力もただの腕力と思えば愛はちからとちから   北山あさひ

 

 

「なんでやねん」子に教える夫ありなんでやねんと思いつつ居る   木部海帆

 

 

さよならを形にするとなんだろう もうつながらない直線だろう   小瀬川喜井

 

 

報告を受けつつ窓に目をやれば季節をそれて咲く百日紅   後藤由紀恵

 

 

公園の苔むすにおいあふれおり今日の受け身のわれをあわれむ   佐藤華保理

 

 

出のわるいシャワーで髪を流しつつしづかな今がふいに厭はし   染野太朗

 

 

まとまつた葬式代のなきゆゑに死なぬが生きても貯金は増えず   田口綾子

 

 

秋茱萸の実は色づいて熊われは家路をいそぐ灯を点すため   富田睦子

 

 

営業中 はためく幟の赤色が信号みたいな港20時   宮田知子