苗五本育てて今朝の初もぎの胡瓜を食めば胡瓜の音す 上野昭男
冠が「激動の」から「なつかしの」へ移りゆきたる昭和なるかな 松崎健一郎
お清めの塩に茹でたる枝豆は真夜に戻りてくるひとのため 田村ふみ乃
料理酒を買うにも年齢確認と感情持たぬタッチパネル押す 山家節
給料日 午前零時のコンビニでATMに頭を下げる 山田ゆき
幾十のシヤボン玉の飛びくるを恐いこはいと二歳児の逃ぐ 門間徹子
あたたかき身央(みなか)を通る一筋がときとき鳴りて救心をのむ 井汲美也子
烏瓜咲き覆いたる道祖神覗けばしかと抱き合っており 大橋龍宇
キヤツチアンドリリースといふ釣りをする男の闘争本能あはれ 香川芙紗子
掻きてやる猫の柔毛がふんわりと飛ぶほどの風田を渡りゆく 中井溥子
執拗にもの打ち続ける夢を見し夜が明けぬれば野分来たりぬ 本谷夏樹
薬剤に枯れない草の生れしとうスーパー雑草スーパー恐し 菊池和子
負けるのは愛深き側か冷蔵庫充たして待つも子は現れず 智月テレサ
昇りくる陽を受け棚田のひとところ穂の息ならむ白き風見ゆ 牧坂康子
しゅりしゅりとあれは時間を掘っている目を閉じて聞く蝉の鳴き声 高木啓
簡単な手術ですよと医師は言ふ冷たき椅子に待つ一時間 杉山やす子
混浴と知らずに入り来て大風呂に独りなれども前を隠せり 新藤雅章
アボカドのしんねりしたるやわらかさに歌評さるる雨の降る夏至 里見絹枝
さみどりの獅子唐炒める夕まぐれ夏の密度の高くなりゆく 浅井美也子
ゴジラから逃れられるか鎌倉の大下さんの寺のポケモン 広沢流
夏空にふはりふはりと遊ぶ庭皇后の真上の鳶おーい鳶 南真理子
突然の豪雨を連れてきた風が網戸をくぐりお昼のパジャマへ 左巻理奈子