雨雲のたれ込めるように響きくる鳥のうた梅雨の湿りを分けて 宇佐美玲子
励ましは一切言わずただ聞き入る阿武隈川に車を停めて 西一村
炎天の棚田歩きの休みどき冷凍みかんに頬を冷やせり 相原ひろ子
いただける野の百合の束抱へ持ち中学生に席を譲らる 庄野史子
午前二時喉の乾きに目を覚ましごうごうと降る雨音を飲む 矢澤保
切り分けた文明堂のカステラが食べられてゆく文明人に 伊東恵美子
ジャンプして転がり遊ぶ幼子が去り座布団のへこみが残る 広野加奈子
幾度(いくたび)も脚立を降りて水平を確かめ垣のさざんかを刈る 金子芙美子
梅雨空の奥に夏空ある気して洗濯する手を弾ませてをり 横川操
咲きつぎてのうぜんかつら蔓伸ばす封書の中身は講座の案内 熊谷郁子
わが父は苔野二郎のペンネーム歌人名鑑にその名連ねき 苔野一郎
おおよそは羽の動きに飛ぶ鳥を見分けん朝の大空に追う 大山祐子
母猫にまことそつくりの三毛の猫コピーと名を得て二十年生く 河本徳子
落し物ジプロックに入れ木につるし持ち主を待つ我の生活 坂田千枝