作品Ⅱ
骨拾う確かに拾ったあの骨は確かに父の骨だったのか /菊池理恵子
バッグひとつに退院をする病室に残る人らの名札が掛かる /多々井克昌
商品の棚の間に隠れつつ監視カメラのレンズが光る /佐々木剛輔
飲み会を夕食会と言い換えて友は酔うなり何も変わらず /矢澤保
この国に原節子という女神いて癒されしかな敗兵の傷 /伊藤恵美子
食べて寝てはてさて何も考えず子猫の売られゐる昼の街 /田浦チサ子
野仏のみめよき写真一枚を残して去りし青年偲ぶ /関まち子
歩くこと目的なれば一人がよしおのがペースにおのがコースを /河上則子
あがいても哭いても海は知らぬふりだから静かに家に帰ろう /宇佐美玲子
天をさし護摩の焔は立ちのぼり美しき読経はみ堂に響く /藤森悦子
漢方薬劇的効果はあらねども杖なき歩みを薬効とする /塚澤正
愛用の傘いづくかに忘れきてその夜の雨を落ち着かず聞く /横川操
青空にらせん階段あるらしく高みを目ざす鳶をまぶしむ /草野豊
川岸を歩いて行けば向こうから激しく吠える柴犬がくる /齊藤愛子
駅前の八百屋魚屋肉屋閉ぢ和菓子屋のみが季節を告ぐる /相原ひろ子
茶事終えて朝九時半には帰路につく通勤電車の人にまじりて /知久正子
作品Ⅲ
合理主義を標榜したる国なれど曖昧ぬぐえぬチップとやらは /熊谷富雄
「クスリだよ・ご飯だよ」と言ひ畑の菜に防虫剤と肥料撒きゆく /松山久恵
きぞの夜はしやべりすぎたとぽそぽそと言ひたる人の含羞ぞよき /松崎健一郎
革新の女性候補は女性のみターゲットとしチラシを渡す /鈴木霞童
おまえなどと呼ばれたる夜の蒸し暑さエアコンの風強にして受く /浅井美也子
今にして思えばかの時伏線に気付かず曲りし十八の春 /瀧澤美智子
樹を掴み夜明けを待たず割れる背の蟬は翠の翅より生まる /田村ふみ乃
税金を滞りなく納めても大人になれず悪態を吐く /広沢流
心臓の魚はいまだ跳ねたまま順番がきて名前よばれる /おのめぐみ
見るだけと心に決めて春色の服のコーナーそろりと通る /名須川万里世
美しき五重塔に絹雲のかかるを君と語りつつ見る /さいとう春