作品Ⅰ
歌の友のあまたのひとのいますなる信濃の空に別れむとする /橋本喜典
跳ねまはる鬼どもの汗とび散りて月明に酔ふ鬼の剣舞に /篠弘
むらさきの花おびただしくも付けながら今年もあけび実に成らざりき /小林峯夫
にわか雨避けんと寄りて椨の木を仰げばまこと大き歳月 /大下一真
吝嗇がさらにぶつたくる凄絶の寒さ さよなら舛添要一 /島田修三
紺青の海を帰りて肉店のみどりの包みにコロッケふたつ /柳宣宏
どぼどぼとはたさらさらと右の眼に水が流れて手術はすすむ /横山三樹
さながらに意志もつごとく木の葉はも翻り舞えり春の昼なか /齋藤諒一
生類を喰らい群れゐる五位鷺の糞は格別よきこやしなり /中根誠
街路樹の葉陰にのつぺり顔したるけふの愁いやバス現れぬ /柴田典昭
春嵐この世はややに遠くなり会いたき人の声を思うも /今井恵子
炎天に乾きしミミズ曳きてゆく蟻は己の影さえもたず /中里茉莉子
母の居た厨は常に濡れていて鯵のなめろうオクラのさっと煮 /曽我玲子