十九人集~作品Ⅱ


お互ひの老親のこと語りつつ梅のあはひの青空仰ぐ  青木春枝


拾ひけるユリの木の花手に重し一花(いっか)にひと匙の蜜をふふめる  庄野史子


岩の間の冷たき清水くみて飲むわが愛し子の面輪かがやく  関 まち子


氏神は鎮座まします線量の未だ下がらぬ檜葉の林に  鈴木美佐子


春浅き日射しを恋いて出で来しに虹色蜥蜴の尾は既に無し  藤本美穂子


菜園に疲れし後は書斎へと書斎に倦(う)めば菜園に出る  佐々木剛輔


つぼすみれあるかなきかの風に揺れ思い出したくない人のよう  宇佐美玲子


山椒の佃煮酒の肴とし好みし人のおほかたは亡し  上野幸子


太陽が西から昇る地のあるとよくよく聞けば金星の話  相原ひろ子


草を引く手元に飛び出し驚けり蛙は吾にわれはかえるに  大山祐子


連翹を鵯が群れなし啄めばやはり今年もまぼろしの花  飯田世津子


髭剃らずそそけ立つ髪撫でもせず汝が入院に怠惰なる日々  井上勝朗


廃屋となりて久しき向ひ家の取りこわされて空明るめり  神山昌子


白鳥とたわむるる老い楽しげに靴をかまれて嬉しげに見ゆ  大賀静子


早朝の杉の林のしずもりて忘れてをりしひとつを想ふ  松本ミエ


遠き日に日記を燃やしたる里の庭にことしの桜咲き初む  西川直子


単純な一本の管辿り行きやがて開ける胃壁に夕焼け  矢澤保


松一本伐ってもらいぬ切株にローソク供えお経をあげる  田上郁子


印度洋モーリシャス島いまもつてドードーの骨捜すひとをり  前田紀子