マチエール



泣いたって許されているみどりごのいのちのように滲んでくる汗   佐藤華保理



パズドラにふたりしづかな隣席のはつかに羨し冬のスタバに   染野太朗



若きこと稚拙なことも美徳だと低温やけどのごとき囁き   富田睦子



友だちもいない考え始めると終わりもなくて立ち上がってみたり   宮田知子



貧乏になってまで生きるのが怖い なれば怖がるどころではない   山川 藍



崩れ去る愉悦もあるかコーヒーにじゃぶじゃぶ沈んでいく角砂糖   米倉 歩



つむじ風のようなり人事通達に眺めてこぼす金平糖を   荒川 梢



もう多く望んだりせず駅前に拾えますようかぼちゃのタクシー   伊藤いずみ



かたき雪やわらかき雪それぞれに来し方ありて天と地の間に   大谷宥秀



予備校の講師が描くなめらかな胃の大湾部をノートに写す   小原 和



遅く起きた秋の日の遅き朝食ののちにラジオに風力を聞けり   加藤陽平



花消えて鳥消えて冬どうしても許せぬ歌人の立ち上がり来る   北山あさひ



健康さえあればと思えど音のない午後に開きし通知表なり   木部海帆



百円のカレンダーでは躍進の年にならぬと買い直す社長   倉田政美



青森のりんご!と書かれしダンボールに父の背中のような紅玉   小瀬川喜井



吉祥寺のライブハウスに逢う死者と逢わざりし死者いずれも言葉  後藤由紀恵