作品Ⅱ(人集)


伝説を三橋節子は絵となすや現世(げんぜ)は赤に死後を白とす     庄野史子


不器用に昭和平成を生きつぎし父は遺影にカラカラ笑う        宇佐美玲子


読書する人らの尠きジャワ島に子どもらも裸足(はだし)元気で明るし  木本あきら


垂が髪を払ふ娘のしぐさにて枝垂れざうらを風がそよがす       横川操


春の陽に椅子にもたれて本を読むシフォンケーキのやうなひととき   前田紀子


月かげの露店の湯にて花仰ぐ「さくら、さくら」と唱うひとあり    加藤悦子


掌に受けし桜の花びらのあるかなきかの命の重さよ          武井則子


口を開け目薬を注す店員の口蓋みており在庫を聞くため        矢澤保


山吹は一重が佳しと言ひたるを思ひ出しつつ墓前に供ふ        辻玲子


一平とかの子の墓は並びあり太郎は離れ彫刻は笑む          青木春枝


いつのまにかなくなったものの一つにて甘くて固きインドリンゴよ   岩本史子


名札立つ黄や白の花に近づけば日本たんぽぽ、白花たんぽぽ      西川直子


有楽町交番横のさくらの樹まよい桜と名札が下がる          齊藤愛子


春風の音なく湿る朝の庭物干し竿に雨がえる鳴く           馬場ミヨ子


くぐもりて山鳩の鳴き鳴きやんでしとしと降りだす四月の雨が     西一村


干されたる布団の保つ温もりが背に透けりくる寝ねがたき夜半     稲村光子


春キャベツの嘆きをそっとほぐしゆく優しき言葉求むる吾は      田村郁子


「おしゃべりの青いインコを見かけしや」幸せさがしのような貼紙   金子芙美子