2014年2月号

作品Ⅱ

看護師は血管細い夫の腕に点滴の針さっと刺したり  藤原つや子


病室を訪れ呉るる看護師らの名札の文字に季節を想う  星千代子


耳もとにブーンとひびく冬の蚊に大人二人が振りまわされる  有馬美子


茜雲に紅葉の綾の広がれり今朝の失態遠ざかりゆく  田中和子


お互いに相手の一言待ちわびて動作ひとつに張りつめる糸  田村郁子


蓮の葉は思ひを遂げて一様に首を折りたり立冬の田に  横川操


主婦として続かむ日日を疑はず温みつたはる石焼【やき】いもを買ふ  鹿野美代子


そのヤギの名前はウシミ白い毛に黒の紋様あるゆえにあらん  河上則子


日常はかなり離れて生きて来た逝きてより後はよく傍にゐる  貴志光代


石段をかけ上りゆく少年の足の力はいのちのちから  田浦チサ子


物置に漬物桶を運ぶ時さすがに夫の力を借りぬ  松本ミエ


輪郭はすでに蝶なり三姉妹のやうな青虫パセリの先に  鈴木美佐子


枳【からたち】の百舌【もず】の速贄忘れられ木乃伊【みいら】となりて秋風の吹く  小林正一


形なきまでに蝮を煮くづして子へのスープをつくりしは夢  大内徳子


布団カバーの隅に光子と書いており二人つきりの家族であるに  東島光子


いまいまし手袋の指にかめ虫の潜むを知らずはめたる惨事  吉松梢江


休日に息子がもいでくれる柿余りに多く思案する妻  奥田江和夫


祭壇の花に埋もれ眠りいる花粉症の夫くさめは出ぬか  飯田世津子


夫の身に赤きマーカー引かれしか不安にわれの乳首尖れり  岡本弘子


<二月集>

午の鐘川越え鳴れば「メシ・メシ」と壁塗る若きら足場を下る  松山久恵


女優の名思い出せぬを妻は言う種なし葡萄など食むからと  上野昭男


<作品Ⅲ>

居酒屋の串に刺されてミニトマト火に焼かれてもまだトマトなり  松原照政


病室に無きコーヒーを飲んでくれとモルヒネうたるる友は言うなり  小野喜美子


足ふんばり両手をのばしガラス拭く冬の青空広がりてゆく  馬場有子


橅の木に腕を回して頬寄せて呼吸を合わせ充電をする  服部智


わが家を造りしときに掘りあてし土器の破片を花入れに使ふ  井汲美也子


くたくたになりて眠りに落ちてゆく今こそ幸せなのかと思う  高野香子


老けすぎて分からなかったと我をいふあんたもそうよと言ひたきものを  斎藤美枝