2013年11月号の作品②
十七人集
治す薬なきゆえ(※旧)難病と言ふらしき受け容れがたき新たな事実  貴志光代

スクスクと延びゆくキュウリに子を思ひ反抗という二字懐かしむ  田沢信男

発想を変へてたやすき厨事【くりやごと】鋸もて南瓜を真二つに切る  菊地孝子

鉄橋を渡る電車の轟きに目覚めて次は下車する駅ぞ  金子芙美子

免疫力たかむる食品の表つくるこの病ひにも得るものあらむ  鹿野美代子

くりやべの蛇口開けば勢いを増し来る水音を朝の音とす  熊谷郁子

地下深くエスカレーターに降りてゆく物体の一つとなれば立つほかはなく  齊藤淑子

吸う吐く吐く吐くことが大事と教えられ大きく深いため息をつく  河上則子

作品Ⅱ
暑い中ギリシャで聞きしこの言葉歩いているのは日本人だけ  松本知誉子

腰までも伸びた雑草抜きとれば大きな南瓜三個出てくる  藤原つや子

傷をつけ叱られし頃を思いつつ座卓をなでる夫の饒舌  高尾明代

定年後に日本列島旅せんと約束すれど果さず夫逝く  河本徳子

親戚とは葬祭用の数合せ三十年振りに叔父の子に会う  山口昭子

印刷と紛える友の書体にて在りし日の文を繰り返し読む  田中和子

土色の殻をまとえる蝉の子の穴より出でしあと 足早し  片山玲子

吾が齢越ゆることなき終戦忌埋もれし青春取り戻せぬまま  武井則子

新盆の供花にと供えし白百合の褪せて変れど甘き香の満つ  村松栄

にわとりのように首あげボトルより水飲むならいいま常となる  稲村光子

あたふたと網戸を締めんとするもののなぜか吾には目もくれぬ蜂  水谷安子

文字盤の数字が徐々に浮かびきて葉牡丹の発芽確かめにゆく  佐々木剛輔

歩道橋の撤去終わりて歪みいし手摺の錆を見ることもなし  広野加奈子

共白髪となる迄二人生きねばと言ひつつ茶髪に染めてい(※旧)るなり  坂田千枝

何事も医師を信じてまかせやう空つぽのわれは筋トレをする  鴨志田稚寿子

十一月集
この夜半カラースプレーにて描く人の闇とふ覆面剥がしてみたき  栗本るみ

盆中は坊主は多忙あと数日と、最後まで気配る臨死の友は  中澤正夫

ふところの蚤愛でましし良寛を慕ひながらに虻打ち殺す  伊藤宗弘

人に会ふことに疲れし週明けは新聞じっくりとどこまでも読む  森暁香

あやまちて砂に撒かれしクレヨンの美しければすぐに拾はず  秋元夏子

車内にて終らぬ話はホームから階段に及ぶ熟女三人  近延信子

明日あるを疑はずして図書借りぬ返却期限は二週間先  荻谷ます美

日盛りを避けるすべなき父母の墓石の上ゆ水をかけやる  近藤恭子

作品Ⅲ
物乞いを外して撮ればカテドラル・ノートルダム・ド・パリ尖りゆく  北山あさひ

十年ぶりにくちなわ見たりお互いに驚きたるやその場を逃る  戸山二三男