マチエール

元旦のコンテナ埠頭はだれもいない子供も犬もレゴで出来てる   佐藤華保理

うすがみに結びし縁をうすがみに解く冬までを妻なりきわれも   後藤由紀恵

蛇が森をさらさら抜けるようにゆく雑踏に頬冷えてつごもり   富田睦子

テロップに交通情報流るるを音消して見る マツコが笑う   染野太朗

雪の夜の市民プールの更衣室幼き蛇が這い寄りてくる   小島一記

餅のびることても笑える4歳児魂の色濃くしていくや   木部海帆

わが前方ゆく乗用車に続くなり誰ともおなじでいたい雪の日   小瀬川喜井

ANAGURAを二人で埋めて(どの二人?)子供を産めという年賀状   山川藍

濁り水のような目の色死に猫の魂【たま】ひたひたと夜道を抜ける   宮田知子

散髪屋すぎて信号にさしかかる頃にようやくその匂い来る   加藤陽平

東西線の側に暮らして日本橋で会ひたがるひとの面倒臭さ   田口綾子

目覚めれば忘れてしまう歌だろうフローリングに霜柱みゆ   荒川梢

美しい響きを期待していても「如雨露」の読みを調べもしない   倉田政美

投げつけてやろうと思った雪の玉ギりっと握った手のひらに溶け   小原和

ぎんいろの螺旋階段のぼりきりあっ、と思えば降下する愛   小林樹沙

ロンドンに降る雨はきっとあたたかい生春巻から透けているエビ   立花開

削り取るフロントガラスの薄氷ハンドル握る母覗きつつ   伊藤博美