〈作品Ⅰ〉
一万年にあと十年といふごとき亀のかたちの石を贈らる 橋本喜典
まつぶさに花一つづつ白梅のひらくちからに面【おも】を打たれつ 篠弘
沖の大夫、馬鹿、叔父だまし、藤九郎多彩なるかな阿呆鳥の綽名【な】 小林峯夫
掃き終えて振り向けばはや山茶花の白き幾片散る石畳 大下一真
ひひらぎの花のほとりに携帯の灰皿いだし世のひと俺は 島田修三
どんな顔してゐたんだろ山道の水仙の花こつち向いて笑ふ 柳宣宏
われの死はわれの親の死ふたりを知る子は他になし鵯が無く 三浦槙子
歯科治療の帰りのスーパー手が伸びてつと掴みたる白粥パック 井野佐登
一枚に赤入らざるゲラ刷りをめくる一瞬不安がよぎる 坂田和子
避難者の話を聞いてふりかへりカメラに向いて語り出す記者 中根誠
寂しきが寂しきに言へる鋭き言葉 黄菊白菊壺に溢れて 柴田典昭
この人は大事に育てられたろう紙の表を撫でる手のひら 今井恵子
遠き日に祖父の振りいし斧に似る重く鋭く初冬の光 中里茉莉子
〈まひる野集〉
話ゐる言葉政治に触るるとき隠喩となりてつかのま光る 加藤孝男
無知のする厭がらせゆえパーハラと笑い飛ばして業務を進む 広坂早苗
ふうせんの「ゲンパツゼロ」を持ち帰り菊と一緒に花瓶にさせり 市川正子
むらむらと白きくらげの雲浮び限界団地に人影もなし 植木節子
おほかたの客は本音を晒せえるもわれらは客に本音さらさず 寺田陽子
千ミリの点滴なして明日のためなほ残さるる腕のチューブ 竹谷ひろこ
イソップを夜ごと読みくれしわが母のその教えわれ多く守らず 斎川陽子
譲られて前過ぎるとき助手席の犬が「どうぞ」という貌をする 松浦美智子
還暦を目前にして逝きたりし死を思うとき月過ぎる雲 高橋啓介
護憲とふ夜の集会はなみづの出てくるやうな寂しさである 麻生由美
パートからパートへ掛け持つ若者の意外に清き応答の声 中道善幸
小言多くなりゆく夫に愚痴多きわれが応へて勝負五分五分 久我久美子
通勤の時間の速しゆらゆらと「砂の器」の座席に嵌まる 升田隆雄
ぼうやりと一人ぼつちの家にゐてトイレの鍵は確かに掛くる 柴田仁美
〈マチエール〉
さりながら雨の降る日に傘をさすその正しさにほほえむ母は 後藤由紀恵
黒糖を割り入れてゆくわれならば手首の部分鶏なれば煮る 富田睦子
コンドームを箱ごと捨てつ分別についてうっかり考えたのち 染野太朗
日本語をひとり占めして折々にちぎりて与う摘みぶかきかな 米倉歩
赤本やマクドナルドのテーブルに顔くっつけて眠りたくなる 小島一記
黒々と海苔を置きたる弁当の重き月曜は安寧である 佐藤華保理
眠ること食べることたそがれること繰り返し死者の呼びたる方へ 小瀬川喜井
猫みるとあなたを思い出しますとメールが届くねこ見てるとき 山川藍
大信州、大雪渓に真澄あり久保田もあるか忙し首は 大谷宥秀
今日吾が眼科に行くこと眼科医は知るまい吾は密かに行くべし 加藤陽平
サンダルから食みだす爺の親指の爪おがくずを固めたみたい 宮田知子
また戻る場所の重さを知りたくて島の名前は告げずに立ちぬ 稲本安恵
長針と短針がすれ違うように知られることなくトイレに入る 倉田政美
辞めるって聞いたけれども大丈夫?パエリア鍋に引っかかるエビ 荒川梢
満ち足りた日々ではないが今きみが柿たべてふとほほえみました 小林樹沙
one after anotherといふ慣用句【イディオム】にやがて埋もれてゆく秋の庭 田口綾子
70%の海の0.0001%は涙 立花開
知り合いの誰に聞いても参加していたのに低い投票率が 伊藤博美
すすきのはいいところですニューハーフと女子の定義を朝まで語る 小原和
一万年にあと十年といふごとき亀のかたちの石を贈らる 橋本喜典
まつぶさに花一つづつ白梅のひらくちからに面【おも】を打たれつ 篠弘
沖の大夫、馬鹿、叔父だまし、藤九郎多彩なるかな阿呆鳥の綽名【な】 小林峯夫
掃き終えて振り向けばはや山茶花の白き幾片散る石畳 大下一真
ひひらぎの花のほとりに携帯の灰皿いだし世のひと俺は 島田修三
どんな顔してゐたんだろ山道の水仙の花こつち向いて笑ふ 柳宣宏
われの死はわれの親の死ふたりを知る子は他になし鵯が無く 三浦槙子
歯科治療の帰りのスーパー手が伸びてつと掴みたる白粥パック 井野佐登
一枚に赤入らざるゲラ刷りをめくる一瞬不安がよぎる 坂田和子
避難者の話を聞いてふりかへりカメラに向いて語り出す記者 中根誠
寂しきが寂しきに言へる鋭き言葉 黄菊白菊壺に溢れて 柴田典昭
この人は大事に育てられたろう紙の表を撫でる手のひら 今井恵子
遠き日に祖父の振りいし斧に似る重く鋭く初冬の光 中里茉莉子
〈まひる野集〉
話ゐる言葉政治に触るるとき隠喩となりてつかのま光る 加藤孝男
無知のする厭がらせゆえパーハラと笑い飛ばして業務を進む 広坂早苗
ふうせんの「ゲンパツゼロ」を持ち帰り菊と一緒に花瓶にさせり 市川正子
むらむらと白きくらげの雲浮び限界団地に人影もなし 植木節子
おほかたの客は本音を晒せえるもわれらは客に本音さらさず 寺田陽子
千ミリの点滴なして明日のためなほ残さるる腕のチューブ 竹谷ひろこ
イソップを夜ごと読みくれしわが母のその教えわれ多く守らず 斎川陽子
譲られて前過ぎるとき助手席の犬が「どうぞ」という貌をする 松浦美智子
還暦を目前にして逝きたりし死を思うとき月過ぎる雲 高橋啓介
護憲とふ夜の集会はなみづの出てくるやうな寂しさである 麻生由美
パートからパートへ掛け持つ若者の意外に清き応答の声 中道善幸
小言多くなりゆく夫に愚痴多きわれが応へて勝負五分五分 久我久美子
通勤の時間の速しゆらゆらと「砂の器」の座席に嵌まる 升田隆雄
ぼうやりと一人ぼつちの家にゐてトイレの鍵は確かに掛くる 柴田仁美
〈マチエール〉
さりながら雨の降る日に傘をさすその正しさにほほえむ母は 後藤由紀恵
黒糖を割り入れてゆくわれならば手首の部分鶏なれば煮る 富田睦子
コンドームを箱ごと捨てつ分別についてうっかり考えたのち 染野太朗
日本語をひとり占めして折々にちぎりて与う摘みぶかきかな 米倉歩
赤本やマクドナルドのテーブルに顔くっつけて眠りたくなる 小島一記
黒々と海苔を置きたる弁当の重き月曜は安寧である 佐藤華保理
眠ること食べることたそがれること繰り返し死者の呼びたる方へ 小瀬川喜井
猫みるとあなたを思い出しますとメールが届くねこ見てるとき 山川藍
大信州、大雪渓に真澄あり久保田もあるか忙し首は 大谷宥秀
今日吾が眼科に行くこと眼科医は知るまい吾は密かに行くべし 加藤陽平
サンダルから食みだす爺の親指の爪おがくずを固めたみたい 宮田知子
また戻る場所の重さを知りたくて島の名前は告げずに立ちぬ 稲本安恵
長針と短針がすれ違うように知られることなくトイレに入る 倉田政美
辞めるって聞いたけれども大丈夫?パエリア鍋に引っかかるエビ 荒川梢
満ち足りた日々ではないが今きみが柿たべてふとほほえみました 小林樹沙
one after anotherといふ慣用句【イディオム】にやがて埋もれてゆく秋の庭 田口綾子
70%の海の0.0001%は涙 立花開
知り合いの誰に聞いても参加していたのに低い投票率が 伊藤博美
すすきのはいいところですニューハーフと女子の定義を朝まで語る 小原和