<九月集>
鉛筆の芯を尖らせ並べおく一本くらゐは逆さに置かむ   久我久美子

菖蒲園の洗いざらしの空掴みそのまま胸に籠めて帰りぬ   上根美也子

住友のTOEICの平均点【へいきん】上がりたり山内君の入社してより   小島喜久代

「痛いの」と言えば我がまま許されるなる程これは少し癖になる   高野香子

三十キロの米袋ぐいと持ち上げる米屋の娘の細きジーンズ   原田勝子

悲しみの宇宙も花もあなたならハッピーエンドにぬり潰すだろう   小林樹沙

「このまま海に行こうよ」ふざけて言い合えば笑った細い目の中は海   立花開

<作品Ⅲ>
晴ればれと今朝の心に手を合わす母さん畑の草とりました   小澤光子

洗っても指に染みつく蕺草の家事の合間の嗅いで確かむ   服部智

健やかなる寝息をたてる夫の足に仕事に冷えしわが足触れる   小原守美子

発熱の君のからだをよこたへて裂かばあふれむふるさとの砂   田口綾子

日食に溶接工の三人が遮光面つけ空を見上げぬ   稲熊昌広

何もかも薄められたり祖父【おおちち】の向かいでぐっと味濃き鰻   伊藤博美