5月号の作品③

<まひる野集>
たましいを入れたのかと問う人がいる作りし陶の雛を飾れば   斎川陽子

生くる世の終の味方にせむとして汝【な】を生みにしを娘に言はむ   竹谷ひろこ

日照雨してC・O・Hの化学式動くわたしも深呼吸する   麻生由美

懐かしき臭いのありて有鉛のうすももいろの甘きガソリン   高橋啓介

頸椎を損なう夫の冷たき掌お風呂あがりのわが掌につつむ   小栗三江子

<マチエール>
怒りにて体【たい】は冷えたり雪道をヘッドライトが近づいてくる   染野太朗

聖餐のパンのごときを受け取りぬ差し出されたるひとひらの文【ふみ】   米倉歩

カピバラのわれは夜更けの湯に沈み人の声など聞いているなり   後藤由紀恵

乾杯は私のために卒園の夜は蕎麦屋で田酒に酔いぬ   富田睦子

10年を共に暮らせる歳月はこの共有のタンスが知りたり   木部海帆

寒くってその場で走るもうすぐだ袴といえば土筆だと言う   山川藍

少女期にならんとする子が独り立つ鏡の中は漲るばかり   佐藤華保理

降りながら溶けゆく己を想うのか右に左に揺れる牡丹雪    小瀬川喜井

我が顔を味わうがに見て雪子と呼ぶ婆よ私は雪子でしたね   宮田知子

大広間に飛び交う視線も静まれば見えなき綿毛ふわりと舞い落つ   大谷宥秀

月細る夜の階下で少年の祖父にもらいし鋭き骨を    稲本安恵

真実の自分は鏡に映らぬとゆとり世代は歯をみがきたり    川嶋早苗

顔をふくタオルうすければ霜やけの指の形に花柄とがる   加藤陽平

来客用スリッパを履いて平然たる生徒よいつまで客のつもりだ   倉田政美

役にたつことに慣れゆく午前二時中空に浮かぶ点滅信号   荒川梢

恵方巻一口食べて「美味しい」と呟いてしまった誰にともなく    小原和