4月号の作品③

<まひる野集>

わが背【せな】にアロマオイルを滴らせゆつくりなでる指などなかり   加藤孝男

菜の花のみどりを茹でる厨辺の明るさわたしひとりのために   広坂早苗

お供えの墓の菊をも食う鹿をまくらに始まる古文書の会   市川正子

組み合はす母の指から抜かぬまま指輪は母と共にゆきたり
柴田仁美 35ページ

<マチエール>
千円で売れた食卓 冬の午後を二脚の椅子と共に出て行く   染野太朗

階段もまだない場所にうれしげに「二階」と母は梯子をかける   山川藍

メジロ待つ父のさ庭に降る雪の土を隠して家を隠して   後藤由紀恵

今日われはいい子なりしと六歳の睫毛の奥に赤星はあり   冨田睦子

お手伝いロボとなりたるおさなごはすべて落としてテーブルを拭く   木部海帆

冬晴れの硝子を磨けばいよいよ濃く家内の昏さ増すと思えり   佐藤華保理

如月の陽光受けてわたくしは直線的な黄色人種   小瀬川喜井

おなじみの交差点より先ゆけばこれ見よがしに青空広し   加藤陽平

もうずっと曇りがいいね快晴はぐんぐん部屋を広くするから   稲本安恵

階段さえ楽しくさせる宝塚ついつい背筋を伸ばして降りる   小原和