3月号の作品②
<十六人集>
両側に瓦礫積まれし一本の道は真直【ますぐ】に何処までつづく   広野加奈子

門司駅で海軍カレーを食べてゐた指の先からひとりぼつちで   大野景子

サフランの赤き蕊入れ炊くご飯ひと粒ずつが黄色くひかる   齊藤愛子

<作品Ⅱ>
痛むでもなく抜け落ちし歯のひとつチリ紙に包む夜の洗面所   多々井克昌

いづこより眺めて居りしやはしぶとが猫の餌入れくわえて去りぬ   河本徳子

寄せ来ては砕ける前のたまゆらを波は入日を芯に巻きこむ   有馬彩苑

約束の百歳めざし父と会い握手は今日の体調をつかむ   哘恵子

マネキンの白き頭【づ】に似るわがあたま娘の創りくれし帽子で覆ふ   鹿野美代子

バリアフリーに改造なして独り居し姉の歳月か黒ずむ手摺   桂和子