3月号の作品①

<作品Ⅰ>

ぎつくり腰あまたあるなか青銅の鮎を年初のひかりに置きぬ  橋本喜典

棒状【スティック】のシナモン添ふるカプチーノ店失せにしがその前通る  篠弘

信篤く常に「なすべき」を目ざしたる友の一世【ひとよ】を心に偲ぶ   関とも

またしても同じ言葉を辞書に引くわが耄碌を仲間【どち】は

認めず   小林峯夫

夢の世に夢にあらざる震災のみちのくにまた雪降り始む   大下一真

試験場にぐわんとカラオケ響【な】りしとふ記事読み愉し独りに還れば   島田修三

道の辺に生えたばかりの草の葉がきれいな若草色をしてゐる   柳宣宏

吊したるジャンパー我を招くゆゑ冬空へ出づ少年の日の   柴田典昭

身構えて腰をかけたる木の椅子の背もたれ優し束の間なれど   今井恵子

人ならば臍かむところこの烏飛びたつ時に柿を落しつ   松浦ヤス子

向かふ側のホームの人の白杖に朝の陽あたる眩ゆきばかりに   川原文子

数秒に皮がぽろりと剥けるといふ新種の甘栗その名ポロタン   中嶋千恵子

研究室ずらりと並ぶ東大にトイレを借りるおそるおそるに   伊藤弘子

ライト当て掲げられいるマンガ誌の朝潮太郎の笑まえる表紙   曽我玲子

原発のほかに難なきこのわれは落とす厄なき齢【よはひ】となりぬ   大槻弘

注意していたのに転んでしまつたと笑つてますこれからは注意注意   加藤須磨子

注文を忘れメニューを囲みあひ校正者らは誤植をさがす   平坂郁子