<マチエール>


そらまめの翡翠煮という美しいよろこびがある五月の卓に   後藤由紀恵

テレビには棒ふり回すますらおのま白き球に当たればよろこぶ   米倉歩

子の腹に引越の日に吸い込んだ物資キラキラ溜まりゆくなり   富田睦子

紫陽花の花の重みをなお増して雨 少しずつ君を失う   染野太朗

デモ隊の旗が厭なりどの旗も掲げていないところで歩く   小島一記

青空を反りかえり見る子とおれば空の語源を知りたるごとし   木部海帆

一日を痒みに支配されたままかゆいとメールしてすぐに寝る   山川藍

食パンの角が四つも有る事は疑問でもなく希望でもない   小瀬川喜井


硝子戸の破れ風入る穴のあり見えなきものをわれは待ちいる   大谷宥秀

春を待つ海の水面は輝きてすりへるかかとがわれを支える   川嶋早苗