<十七人集>


穴のあく扉にいまも貼り付くはセコムのシール誉めてやりたし   広野加奈子

生かされて家族の分まで生きてよと独り残され途方に暮るる娘(こ)   山口昭子

差し障りなき味と知る庭に摘む雪ノ下の葉を天ぷらにして   熊井美芽

「あれあれ」と言われ「あれね」と笑いつつクラス会のおしゃべりつきず   関本喜代子

<八月集>


愚痴言はずやさしかったと過去形に夫は語れり 私のことか   久我久美子

病室のカーテンの襞の陰深くパイプ椅子にてひと夜を過ごす   服部智

<作品Ⅲ>


静寂の世界を変える音がするノックが聞こえる私の中から   小原和

少年の帽子に右手を載せながら前を向きたり父は黙して   柴田仁美

剛毛のわれのすね毛が着陸を困難にする蚊のホバリング   倉田政美

亡きひとの形見と思う春寒の山おおう雪消ゆることなし   井出博子

星座別にひしめき見おろす茶葉の瓶 きみの生まれし日を知らぬ吾を   荒川梢