作品Ⅰ

地震の歌たちまちにして日常となる歌詠みの慣性こはし   橋本喜典

毀されし教会のものわが家に飾られて久し板絵(ルビ:いたゑ)のイコン   篠弘

橋渡る特急「南風(ルビ:なんぷう)」琴の音(ルビ:ね)の聞こゆるやうな春の海行く    関とも

犬のふんふんでしまいぬカワセミの光る背中に引き寄せられて    小林峯夫

さはされど祝われ嫁ぎゆくことをまずは喜ぶ親というもの   大下一真

俺ほどの不憫もあらずと嘆く日はありき嘆きて貪婪に喰ひき   島田修三

靴紐を屈みてむすぶ玄関のドアの隙間に光る夏草   柳 宣宏

讃美歌を歌うときは立つ説教は坐りて聴くなり礼拝堂に    三浦槙子

弟がかつて今またわが息(ルビ:そく)が犬飼ひたがる心根かなし   柴田典昭

不可解な涙ながれて鉄橋をわたる電車に仁丹を噛む   今井恵子

上海より震災見舞いのメール受く共通語たる初級英語に   蓑島良二