まひる野集
原子炉は納めがたけれ茨城の「おかめ納豆」きょう再開す 市川正子
わが妻の寝息をきけるやすらぎに蝋燭の灯にコーヒー啜る 岡本勝
終日(ひねもす)を眠りつづける老い猫の腹をつついて息を確かむ 高橋啓介
同じこと尋ねる老いに看護師が留守電の言ふ口調となり来 植木節子
マチエール
寝過ごした午後の一時に起きましたコアラのえさの時間ですがね 山川藍
言葉にて残すものなどわずかなりさくらスコーンはあたためられて 後藤由紀恵
千代田区の揺れのみを知るぼくたちが昂りて分け合う塩むすび 染野太朗
すれ違う人みな優しき花のころ門出は春にすべしと思う 富田睦子
待つことのよろこびを子と見上げいる桜のつぼみひらく速さで 木部海帆
この人は他人なのかと思うなり母の目の奥いつもいつも秋 小瀬川喜井
遠泳のごとく太筆走らせて息切れるがに穂先せきこむ 大谷宥秀
輪郭が明らかになる窓ガラスカフェにて夜に追いつかれたり 川嶋早苗