十六人集

左耳に電話の声は聴き取れず神話の沼のごとき静寂   入江柚子

究極のハンバーグ作ってみて下さい生協宅配(コープ)の青年ミンチを勧む   河上則子

作品Ⅱ

誕生を今日か明日かと待つ夫の文字の薄らぐ手紙の数多   長戸良枝

ミステリーツアーならねば雪深きこの新潟に来るはなからん   村田安代

こんなにも出来なくなること多くなる筈でなかった吾の老後に   豊田麗子

六三四(ムサシ)とう高さ仕上がれば君と逢うひとり見上ぐるスカイツリーを   益子はつえ

腰病みてそろりそろりの歩にあれど卯年生れの夫に幸あれ   福本泰子

内科医は減量方法訪ねても食べねば減ると笑いてペンを取る   山口昭子

ようやくにシリウス見つけしばらくをクリオネのごと透きゆくこころ   佐伯悦子

その母の旧姓に気づく六歳につながりの図を描きては話す   鹿野美代子

ふるさとに帰れば友は懐かしげに晩年の母に似てきたという   塙紀子

わが猫の爪跡柱に残りゐる死して十年そつと撫でやる   稲村光子

エイと投げヤーと受け取る若夫婦大根吊しいま真っ盛り   佐々木剛輔