作品Ⅰ


「病」の字なくて過ぎたる一年の歌のノートの明日への余白   橋本喜典


手に入りし春の夜半の一時(ひととき)にあす書き出さむことばを探す   篠弘


帰農とう言葉はあれど棄農とう言葉を辞書に探せどあらず   小林峯夫


年越えてようやく散りしかえるでに混じりて霜のごとき山茶花   大下一真


朝は起きぬ細君なりき時に狂(ふ)るる人に添ひつつその二十年   島田修三


善男と善女に紛れ浅草の栗ぜんざいを食ひ終はるなり   柳宣宏


やすやすと一級河川を越えゆける音なきヘリを電車より満つ   曽我玲子