作品Ⅰより


乳母車の緑子みつむる若きふたりみつめられみつめられみどりごねむる   橋本喜典

指先の悴かみをるに寒中のペーパーナイフの刃はきらきらし   篠弘

同窓の四人を乗せて月々の碁打ちに来たる宇野が逝きたり   小林峯夫

くどくどとそれはそうなる意見なれ酒飲まずしてものは言うべし   大下一真

或るときはビローンと言ひて霜焼けの昭和児童を欣喜せしめたり   島田修三

野に立てる花水木の葉を吹く風のすがしさ 人はどうでもいいから   柳宣宏

忘れられ存うことの淋しさに羊の雲がぽくぽく生るる   曽我玲子



まひる野集より


秋冷の朝にし鈍く覚醒す老いたる恩師の面影にれかみ   高橋啓介

ふところのケイタイの音打ち消さる耕耘機押すジャガいも畑   市川正子