作品Ⅰ欄より


丈夫なる足腰ならむ次々と踊る阿呆が攻めよせてくる   橋本喜典

ずつしりと背後の森は昏みきて撫で下ろされしモナリザの肩   篠弘


本物のわれなる顔を見知れるは他人様にしてわれにはあらず  小林峯夫


西行の思いとどめて碑の文字のさやかなりけり小夜の中山   大下一真

たらちねの訃に万歳を叫びしとふ今東光のばちあたりよろし   島田修三


全車両四台出かけし秋晴れの小駐車場に土のかがやき   柳宣宏


列車待つ炎天下のホームよりはみ出し四囲に広がる青空   柴田典昭

遠山の空の晴れ間を陽はくだりフロントガラスに雨粒の照り   今井恵子

雛みいる腹につなげるカテーテル物言わぬ母の胃が動きだす   曽我玲子