ハーモニーという世界・序 | 続あたれぽ

ハーモニーという世界・序

「『ハーモニーという世界 ~アニメが名画になる瞬間~』を語る」というイベントに行ったので、覚え書きを書こうと思います。

『ハーモニーという世界 ~アニメが名画になる瞬間~』というのは書籍のタイトルです。



アニメに出て来るハーモニー処理された止め絵を愛でようというムック本で、アニメと言っても取り上げられているのは出﨑統監督作品に限られています。

ここで言う「ハーモニー処理」とは背景でキャラにまで色を付けたものに線画のセルを重ねたものである、と説明しようとして、ひょっとして「セルって何だろう?」という人がいるのではないかと思い当たり、以下、80年代のアニメファンが当時理解していたところのセルアニメの仕組みを解説します(90年代はアニメファンじゃなくなってるからデジタル化の話とかは知らないよ)。


まず背景。
一般には画用紙に絵の具で描きます(ざっくり)。

背景

これは通常動きませんので、PAN(横スクロール)する時なんかは横長のを描いて(縦も同様)撮影時に引っ張ります。引っ張りながら撮影するんじゃなくて、1コマずつ何mmとかずらして撮るのね、アニメだから。
また、カメラワークが凄くて人物の周りを回り込んじゃったりキャラの後を追っかけてくなんて時にはアニメーターが建物とか道とかをセル画で描きます。背景動画と言います。





この背景の上で動く絵=原画をセルにコピーします。
セルというのは透明な板です。元々は素材にセルロイドが使われていたのでそう呼ばれています。
昔は人がインクを付けたペンで写していました。これを「トレス」と言います。
私が見たことのあるセル画で一番古いのは『国松さまのお通りだい』だと思うのですが、1971年のこの作品はすでにコピーでした。
(あ、アニメの説明じゃなくてセルアニメの説明なので、いきなりセルの話に行って、絵の動かし方とかは説明しませんが…一般に日本のアニメが1秒24コマのフィルムに対して8枚しか描かない、つまり3コマずつ撮影しているというのは後々出てきそうかなあ。)

色トレス
(セル及び原画用紙には位置ズレを防ぐためにタップをはめる穴が開いています。)

ただ輪郭線がなく色を変えなければならない部分(陰や目の縁など)は原画の色鉛筆の線を色インクでトレスします。これを「色トレス」と言います。

色鉛筆については後日興味深いニュースがありましたので追記しておきます。(12/5)
三菱の硬質色鉛筆、アニメーターが使う「橙色、黄緑、水色」も生産継続へ - ITmedia ニュース(2015年12月01日)

TOHOシネマズの幕間アニメ「アニメガタリ」の『心が叫びたがってるんだ。』コラボ編で先輩が「色トレス」と書かれたTシャツを着ているのはこれのことです。


(この先輩の絵だと髪のテカリと首の陰とTシャツじゃない服の模様のとこが色トレスです。)


輪郭線をつぶさないように裏から色を塗ります。
他の色の上にはみ出しても表から見て透けないように濃い色から塗っていきます。
(ところで、映画・ドラマでナース役のエキストラを募集する時に、最近は「衣装はこちらで用意するが下着は白かベージュで来い」と書いてあります。)

セル画

裏返すとこんな感じです。

裏

実物を手にしたことがある人でないと滅多に目にしませんが、このセルの裏側を堂々と作品内に映した映画があります。

旧劇エヴァのまごころパートでシンジの顔アップで溶けていくような描写がありますが、あれってどうやって撮影してるんですか? | ask.fm/LawofGreen(回答:北久保弘之)

「旧劇エヴァ」こと『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』では、クライマックスのシンジ君の頭の中のフラッシュバックで裏返しのセル動画が使われています。





背景の上にセル画を重ねて撮影します。

完成形

ところで同じポーズで何かしゃべってるだけっていう時に同じ絵を何枚も描くのは非効率かつ不経済ですね。
その場合は口だけの動画を描いてセルを重ねます。

口なし

口

これ後でセルを何枚も重ねるっていう話が出て来るはずなので用意しました。

撮影の様子についてはウォルト・ディズニーさんが1957年の新開発撮影台を紹介してくれている動画をご覧ください。80年代もそんなに変わってないはずです。





さて、セルアニメの基礎というかハーモニー以外で出て来そうなことがらは説明したので、いよいよハーモニーです。

要は『ハーモニーという世界 ~アニメが名画になる瞬間~』の表紙のような絵で、これはどうなっているのかと言うと、最初に書いたように、背景でキャラにまで色を付けたものに線画のセルを重ねる。

美術彩色
これは薄くキャラの線が残ってますが、明確な答は聞きそびれたもののイベントでアニメ研究家の氷川さんが「原画のアタリはどうやって取ってるんですか、鉄筆とか?」と聞いていたので、おそらく本物にはキャラの線は入ってないです。

線画

ハーモニー

場合によってはセルにタッチ(斜線の陰)等の描き込みを加えたり逆にセルの線を削ったりを美術側で処理して仕上げるらしいです。

「ハーモニー」はそもそもは技法のことではなくて、作画と美術という違う部署による共同作業という意味で文献というか絵コンテだったかに出て来てる言葉だそうです。
出崎監督は「描き絵」という言葉を使っていて、どうやら『あしたのジョー2』の頃に現場発でなくアニメマスコミなど外から定着して行った呼び方のよう。

Wikipediaで「ハーモニー処理」を検索すると樋口真嗣監督の奥さんばかり出て来るのですが、ジブリでのハーモニー処理は止め絵ではなく、王蟲とか動く城とか背景の色の塗り方で動くものを指しており、デジタル化によりテクスチャー貼り付けで対応できそうな現在、どういう扱いになっているかは不明です。





改めてナウシカを見るとギガントからの発展系ですね。
コナンで図説することにしたのは止め絵を使ったアニメとは対極にあると言われているので面白いかなと思ってなのですが、この話の流れが潜在意識にあったからかもしれませんねえ(構成細かく決めて書いて=素材準備してません)。



このままイベントレポートに行こうと思いましたが、当日撮った写真は少ないものの素材を集めようとすると結構出て来て意外とボリューム書けそうなので、以下次回!

【チラ見せ】
イベントで話に出て来たガンバの「3枚走り」というのをお試しでトレスしてみました。



追記:ハーモニーの彩色の「原画のアタリ」について新証拠が出て来ました。(12/5)

こちら『ハーモニーという世界 ~アニメが名画になる瞬間~』に掲載された『あしたのジョー2』初期エンディングの一枚ですが、よく見るとセルと背景がずれてますね。

あ!背景に普通に輪郭線入ってる!

ちなみに実際に放送された分はずれてません。