理趣経　第六段　心真言　

時薄伽梵　為欲重顯明此義故　凞怡微笑　持金剛拳大三摩耶印　説此一切堅固　金剛印悉地三摩耶自眞實心 噁

ときに薄伽梵、かさねて、この義を顕明せんと欲するがためのゆえに、凞怡微笑して、金剛拳の大三摩耶の印を持して、この一切の堅固金剛の印の悉地の三摩耶なる自の真実の心を説きたまう。aḥ

この一文の主語は、梵文を考慮すれば「持金剛拳大三摩耶印」の「薄伽梵」である。「金剛拳の大三摩耶印」について、『祕要鈔』は「持金剛拳大三昧耶等者金剛拳印也。更問之」（718a28-29）としますが、羯磨会の印をいいます。また「三昧耶（= 誓願）の拳の印」（dam tshig gi khu tshul gyi phyag rgya）と呼び方もあるようです。髙橋先生＜第二部＞p.346参照。

[T] 20 atha bhagavān vajramuṣṭir [(tib.) + byang chub sems dpa’ sems dpa’ chen po] mahāsamayavajramudrāparigraha imam evārthaṃ bhūyasyā mātrayoddīpayan prahasita-

vadana idaṃ sarvadṛḍhavajramudrāsiddhisamayaṃ nāma hṛdayam abhāṣata - aḥ //

そのときに、尊きお方、大三昧耶の金剛印（mahāsamaya-vajra-mudrā）を摂持する金剛拳は、まさに、この義（説示内容）を再び顕明しつつ、顔に笑みを浮かべて、堅固なるあらゆる金剛印の悉地の三昧耶と称する、この心真言を説示した。aḥ

心真言の aḥ について、『理趣釈』は「これ、涅槃の義なり。四種涅槃を一字の中に摂す。」とし、nirvānaḥ を意味するとします。一方、『初会金剛頂経』（STTS）では、aḥ は「金剛薩埵の加持」「金剛遍入の心」（Cf. 金剛鈴）としての機能を担ってお唱えされます。

お写真は、東京国立博物館所蔵

金銅五鈷鈴

理趣経 第六段 得益段（歎徳） 四種智印の功徳

理趣経　第六段　得益段（歎徳）　四種智印の功徳