【1/23追加・訂正】お寺の書庫に『辯財天勤行儀』があり、経文を対校してみました。

 

金光明経大辯才天女品

これは、曇無讖訳(-413年)『金光明經』「大辯天神品」第七の全文(T.No.663, vol.16, 344c21-345a3)となります。それに相当する義浄訳(703年)『金光明最勝王経』「大辯才天女品」第十五は、この本文の後にて示します。

 

爾時(にじ)大辯天(だいべんてん)白佛言(びゃくぶつごん)

 

そのとき、大辯天[は]佛に白して言さく、

 

弁才天は、世尊・釈尊に誓いを述べます。

 

世尊(せそん)是説法者(ぜせっぽうしゃ)

我當益其 楽説辯才(がとうやくご、ぎょうせつべんざい)※「才」は『勤行儀』では「財」となっています。

令其所説 荘厳次第(りょうごしょせつ、しょうごん、しだい)

善得大智(ぜんとくだいち)

 

世尊[よ]、この法を説く者(dharmabhānaka)[をして]、我れまさにその説くことを楽う(仏法を説くために必要な)辯才(*pratibhāna)を益(ま)し、その説くところを荘厳し、次第して、善く大智を得せしむ。

 

若是経中 有失文字 句義違錯(にゃくぜ、きょうちゅう、うしつもんじ、くぎいさく)

我能令是 説法比丘(がのうりょうぜ、せっぽうびく)

次第還得 能與総持 令不忘失(しだいげんとく、のうよ、そうじ、りょうふもうしつ)

 

もしこの経中に、文字(*nirukti)を[忘]失し、句義(*artha)[の]違錯すること有らば、我れ能く是の説法比丘をして、次第して還得せしめ、能く総持(*dhāraṇī, smṛti)を与えて不忘失ならしむ。

 

弁才天は説法者に対して、弁才を増し、智慧を得ししめ、総持(憶持、陀羅尼)を与えることを誓ってくださっています。

 

若有衆生 於百千佛所 種諸善根(にゃくうしゅうじょう、おひゃくせんぶつしょ、しゅしょぜんごん)是説法者(ぜせっぽうしゃ)

為是等故 於閻浮提(いぜとうこ、おせんぶだい)

廣宣流布 是妙経典(こうせんるふ、ぜみょうきょうでん)令不断絶(りょうふだんぜつ)

 

もし衆生有って、百千の佛の所に於いて諸善根を種え、この法を説く者は、[われ]是れ等の為の故に、閻浮提に於いて、この妙経典を流布、広宣して断絶なからしむ。

 

弁才天は説法者のために、この経典、しいては、仏法の護法神となることを誓う。

 

復令無量 無辺衆生(ぶりょう、むりょうむへんしゅじょう)得聞是経(とくもんぜきょう)當令是等(とうりょうぜとう)悉得猛利(しっとくみょうり)

復た無量無辺の衆生をして、この経を聞く[こと]を得せしめ、まさに是れ等をして悉く、猛利を得せしむ。

 

この経典、ひいては、仏法を聴聞する者に対する利益を誓ってくださっています。

 

不可思議 大智慧聚(ふかしぎ、だいちえじゅ)

不可稱量 福徳之報(ふかしょうりょう、ふくとくしほう)

善解無量 種種方便(ぜんげ、むりょうしゅじゅじょほうべん)

善能辯暢 一切諸論(ぜんのう、べんちょういっさいしょろん)

善知世間 種種技術(ぜんち、せけんしゅじゅぎじゅつ)※「知」は『勤行儀』では「智」となっています。

能出生死 得不退転(のうしゅつしょうじ、とくふたいてん)

必定疾得 阿耨多羅三藐三菩提(ひつじょう、しっとく、あのくたらさんみゃくさんぼだい)

 

[この経を聞く者に]不可思議なる大智慧の聚、不可称量なる福徳の報あり。[この経を聞く者は]善く無量種種の方便を解し、善能く一切の諸論を辯暢し、善く世間種種の技術を知り、能く生死[の苦]を出るを得。不退転にして必定して、疾に阿耨多羅三藐三菩提を得、と。

 

この経、ひいては仏法を聴聞することの功徳の絶大なることを明かす。無上正等菩提の獲得を約束する。すなわち「授記」を与えてくださてっいるかのようです。

東大寺三月堂の弁才天像(のレプリカ)です。

 

上記の「金光明経大辯才天女品」(曇無讖訳)に相当する、義浄訳『金光明最勝王経』「大辯才天女品」第十五は、以下の通りです。訓読にて示します。

 

そのとき、大辯才天女[は]大衆の中に於いて即ち座より起ちて、佛足を頂礼し、佛に白して言さく、

世尊[よ]、もし法師あり、この金光明最勝王経を説く者は、我れまさにその智慧を益し、言説の辯を具足荘厳すべし。

もし彼の法師、この経の中に於いて、文字句義を忘失する所あらば、皆、憶持して、能善く開悟せしめ、復た陀羅尼総持の無礙を与えん。

又この金光明最勝王経は、彼の有情の、已に百千佛の所に於いて、諸の善根を種えて、常に受持すべきもののために、贍部洲に於いて、広く行はれ、流布して、速かに隠没せざらしめん。

復た無量の有情、この経典を聞くものをして、皆な不可思の捷利(しょうり)の辯才と無尽の大慧とを得しめ、善く衆論、及び諸の伎術を解せしめん。能く生死を出でて、速やかに無上正等菩提に趣かしめん。現世の中に於いては、寿命を増益し、資身の具、悉く円満ならしめん。

 

私たちが日常読誦している、弁才天に関するお経二種をご紹介いたしました。合掌