『密教大辞典』(改訂版1968年)の次に、『望月仏教大辞典』(全10冊、世界聖典刊行協会、増訂版1954~63年)を確認しました。「如意宝珠」(ニョイホウシュ)の項がありました。そこでは以下のような多くの経論から、関連する記述が記載されています。

『大宝積経』第百十賢護長者会(明本TNo.310)、

『大乗理趣六波羅蜜多経』(TNo.261)巻第三発菩提心品

『大毘婆沙論』(TNo.1545)第百二

『雑宝蔵経』(TNo.203)第七婆羅門以如意宝珠施仏出家得道縁

『観仏三昧海経』(TNo.643)第一六譬品

『大智度論』(TNo.1509)第五十九

『金光明最勝王経』(TNo.665)第七如意宝珠品

『文殊師利法宝蔵陀羅尼経』(TNo.1185)

『陀羅尼集経』(TNo.901)第六

『如意輪陀羅尼経』(TNo.1085)

『地蔵菩薩陀羅尼経』(TNo.1159B)

『如意宝珠転輪秘密現身成仏金輪呪王経』(TNo.961)如意宝珠品

 

いろんな情報が引き出せます。まず前回ご紹介した『大智度論』巻第五十九の記述は「有人言はく、諸の過去久遠の仏の舎利なり、法既に滅尽せば、舎利変じて此の珠と成りて以て衆生を益す」と訓読されていました。すなわち、「珠」(如意宝珠)は、仏滅後久しく末法の世になって、衆生を利益するために仏の舎利が変化して成ったものであるということのようです。

 

また如意宝珠とは、どこから入手できるのかという興味については、「忽然として値遇する」(『大宝積経』)とも、また「海に入りて採」る(『大乗理趣六波羅蜜多経』)、同趣旨として「摩羯大魚の脳中より出ず」(『雑宝蔵経』)、「龍王の脳中より出ず」(『大智度論』)、また「金翅鳥の[肉]心(=心臓)を取りて以て明珠と爲し」(『観仏三昧海経』)というものもありました。如意宝珠には、仏の舎利が変化して成ったもの以外にも、天然なものがあるのでしょうか。

 

また『如意宝珠転輪秘密現身成仏金輪呪王経』には、如意宝珠の製法を明かす記述もあります。このような「大阿闍梨の巧匠の巧に資りて作成し、内に本有不改の性たる仏舎利を入」れたるのを「能作性(ノウサショウ)ノ宝珠」といい、弘法大師が請来し、室生寺如意山に納めたものも、それに該当します。なぜ如意宝珠が作成されるのかといえば、「有情を利し、正法を守護せんがため」(『同』)です。

 

 

さて如意宝珠の色についてですが、『大智度論』巻五十九に「この宝珠を如意と名づく、定色あることなく、清徹軽妙にして」(TNo.1509, vol.25,478a28-29此寶珠名如意。無有定色清徹輕妙)とありました。『望月仏教大辞典』には、ちゃんと記載されていたのです。そして『大日経』「具縁品」第二には「如巧色摩尼能滿一切願」(TNo.848,vol.18.12b26)とありますことも確認でき、チベット訳を参照すれば、「一切の願いを満たす、種々な色合いの宝珠」と理解できるのです。

 

如意宝珠は前回申し上げましたように、琥珀色、透明無色、半透明のいろんな色合い、白色の可能性もあるのですが、よりただしくは「定色あることな」し、すなわち、定められた色合いはないということです。それは願いに応じて、さまざまな色合いが求められる、そして、定色はないから、さまざまな願いに応じることができるということなのでしょう。

あなたは、どんな色の宝珠を、いま必要とされますか。

(白銀とする記述、また五色をあげる文献もありますこと加えておきます。)

 

地蔵菩薩、虚空蔵菩薩、如意輪観音をはじめ、如意宝珠を手にする仏さまはおおくいらっしゃるかと思いますが、それについてはまた機会をもうけてお話しいたします。以上で如意宝珠は何色ですかというご質問に対する、一応のお返事といたします。ご質問、まことにありがとうございました。合掌