きっと私は大丈夫。私達の生活には直結しない問題。日本は安全な国だから安心だ。

2020年2月。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で乗客乗員が次々と新型コロナウイルスに感染。この報道を知った時、多くの人が新型コロナウイルスの感染拡大をどこか対岸の火事のように見つめていたように思う。

 

日本には最先端医療がある。日本は医療体制が充実している。日本は防疫にも万全の体制を整えており、国は新型コロナウイルスの感染を有効に抑える機能を備えている。国民の多くが日本の安全神話を信じていた。だが2021年の現在。その安全神話は音を立てて崩れ去り、東京では4度目の緊急事態宣言が発令されるに至った。

 

非常に厳しい現実が目の前に広がっている。もし目的地が見えているなら今少しの努力もできるだろう。だが希望の光はまだまだ霞む程度にしか見えていない。

国民の政府への信頼は諦めに変わった。自粛協力を求めるばかりで公助は微々たるものだ。いざ有事の際に国は我々を平等には救ってはくれないという事実を学んだ。

 

国の対応に対し愚痴を言っても事態は改善しない。差し迫った次の危機はこれから到来するであろう『より深刻でより苦痛を伴う未来』についてである。天災の後には必ず人災が起こる。いやすでに次々と起きている。今まさに不幸の火種は四方八方へ飛び火し、我々の未来を焦がす業火へ確実に変わろうとしているのだ。

 

本来、日本人の多くは真面目で他人に対し思いやりがあり、和をもって尊しとなす精神を重んじる国民性だ。だが新型コロナウイルスは日本人の国民性をも破壊しつつある。先の見えない不安。忍耐を強いられることによる不満や怒り。生活の維持または貧困への恐怖。ありとあらゆるネガティブな要因が人々の心を蝕んでゆく。

 

感染拡大を防ごうと真面目に対策を実行している人がいる一方で、街を見渡せば自由奔放に節操なく行動する人がいる。しっかり感染対策を意識して酒を静かに愉しむ人ばかりなら問題はない。だが街中では複数人が集まり、大声を出して大量の酒を飲み、挙げ句の果てにはゴミを散乱させて放置する馬鹿者が後を絶たないのが現状だ。

 

感染状況を改善したいと真面目に取り組む人と、自分の都合や快楽といったものを優先させる無責任な人との間で軋轢が生じるのは時間の問題だ。真面目に取り組んでいる人の努力が報われないのである。そうなると対立は避けられない。調和が乱れると人同士が争い、やがては双方が憎しみ合う結果を招くことになる。

 

その他にも禍根は次々と噴出する。たとえば協力金などの経済補助が遅いと窮地に立たされている事業者は死活問題に直面し、国や自治体へ更に強い抗議を示しすことになる。また最前線で休みなく体を張っている医療従事者はニュース映像に映し出される混雑した街の様子をどのような感情で受け止めるだろうか。

 

長期にわたるコロナ渦の影響で感覚が麻痺してしまった人が急増した。その反面で冷静に現状を捉えている人の中では疲労や不公平さ、やり場のない怒りや失望が日々発散されることなく鬱積している。どんな人格者であったとしても我慢には限界がある。善良者すら感情を抑えきれないほどの危機的状況が目前に迫っているのだ。

 

我々の置かれている環境はこれから悪化の一途をたどる可能性が高い。倒産や失業率が増加すると貧困に直面する人が一気に急増する。世間では人々のモラルや道徳心が失われつつある状況にあり、困窮者や社会的弱者を皆で支え合うようなコロナ以前の社会環境には程遠い現状がある。

 

加えて昨今社会問題になっているネット上での心ない誹謗中傷などが人同士の分断を加速させ負の連鎖を生み出す大きな悪因となっている。考えたくもないが、貧困や失業は自己責任だとか人生の負け組は頭が悪いなどの罵詈雑言がネット上で書き込まれ、それを困窮した当事者が閲覧したならば想像に耐え難い憎悪が広がってしまう。

 

私は呪術の執行者として人の憎しみの怖さを知っている。人は何らかの代償を得るまでは決して憎しみを忘れることはない。憎しみという感情を適切に処理できなければいずれ心は恨みという深い闇に支配されることになる。憎しみは人の性格を歪め、恨みは人生の光や幸福を奪う障碍になる。

 

これから新型コロナウイルスの感染状況がどのように変化するか誰にも予測は不可能だろう。ただ我々が置かれている環境は悪化する傾向にあることは間違いない。ウイルスの脅威はワクチンの接種によって幾分緩和されるかもしれない。だが天災がもたらした副産物である人災の被害に対しては相当な覚悟が必要だ。

 

我々は今、地獄の門前に立っているに等しい。不満や怒りは嫌悪を招き、嫌悪は根深い憎悪へと変化する。もし負の感情が罪のない人へ差し向けられた時。業火とともに地獄の門は開く。猜疑心は人を鬼と化し、恐れは暴力へと流れる。この危機を乗り越えるには公助を期待してはならない。自助共助が有事を乗り越える最大の力になる。

 

間違ってもコロナ渦の憎しみを人に向けてはいけない。

 

 

摩訶迦羅は古の神の名マハーカーラ。

創造と破壊、そして力の神の呪力がここに極まる。

 

「その恨み あなたに代わって晴らしましょう」

 

呪術代行を承ります。

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