「浄華!浄華!!」
肩を思いっきり押され、幹に寄り掛かっていた浄華は勢いで倒れる。
「何すんだよ!」
「だって、せっかく遊びに来たのにずっと寝てんだもん!」
見上げると、幼い望がしかめっ面で自分を見下ろしている。
(あれ?俺って小学生だっけ・・・?)
もっと大きかった気がするが、手足の大きさや目線の高さを見る限り、やっぱり子供だ。
「ほら、いつまでも寝てないで遊ぶぞ!今日は森の奥まで行くって言っただろ!」
頭がぼーっとしているのに腕を掴んで引っ張られ、無理矢理森の方へ歩かされる。
「痛てぇって!分かった分かった行くから!」
満足そうな顔をした望についていって森の道を歩く。
あまり奥まで進んだことはなかったので内心不安はあった。
「望、あんまり行ったら迷子になるぞ?」
「大丈夫だって!あ、あそこにカブトムシいる!」
急に望が指差した先には大きなクヌギの木とその幹に止まったカブトムシ。
茶色でピカピカと光っていて、今まで見てきたものより大きい。
乗り気じゃなかった浄華もそれを見ると急にワクワクしてきた。
「すげえ!昼間に出てくることなんか滅多にねえのに・・・って、望?」
気づけば望はクヌギの木に手を掛け、今まさに登らんとしている。
「おい!あんな高いところまで登る気か!?」
「あれぐらいいけるって!」
そう言って望はなんのためらいもなく、カブトムシに向かって木に登り始めた。
望が木から落ちて怪我をするさまを浄華は何度も見ていたので、また落ちるのではないかと心配で仕方ない。
そんな浄華とは裏腹に、望はどんどん木に登っていき、あっという間にカブトムシがいるところまで登った。
「ほら、大丈夫だった・・・あれ!?」
望が掴もうとした瞬間、カブトムシは幹を離れ、どこかへ飛んで行ってしまった。
空を掴んだ望の手は木を掴めず、足も滑って下へ落ちていく。
「望!」
浄華は咄嗟に木の元に滑り込み、落ちてきた望を身体全体で受け止めた。
「いってー・・・」
「浄華!大丈夫か!?」
「・・・早く降りろ」
浄華に乗っかっていた望は慌てて降りた。
ひじや背中の辺りがひりひりするが、望が無傷なのを見て安心する。
「浄華!ひじから血が出てる!」
「え?」
見ると、痛み以上に派手に怪我をしている。こんなに血が出ているとは自分でも思わなかった。
それを見て望は困った顔をした。
「俺なんか助けるからだぞ!腕貸せよ!」
望は浄華の腕を掴んで自分の方へ寄せ、傷口を舐める。
「!? お前何して・・・」
「・・・う、不味い・・・」
「当たり前だろ!もういいから・・・」
「だって薬とか持ってないもん!俺のせいでこんなになったのに・・・」
望の泣き出しそうな顔を見ると止められず、浄華はくすぐったい感覚に耐えた。
少し時間がかかったが、望は綺麗に血を舐め取ると、持っていたハンカチを傷口に縛る。
手当てを終えると、口に含んだ血をぺっと吐いた。
「何で血って鉄みたいな味すんの?もっと甘かったらおいしいのに・・・」
「血は飲むもんじゃねえだろ。・・・ありがとな」
「こっちこそ悪かったな。俺のせいで怪我させて。カブトムシもどっか行っちゃったし・・・あれ?」
望が言葉を止め、浄華をまじまじと見る。
「な、なんだよ・・・」
望は急に明るい顔になり、浄華の頭に手を伸ばす。
戻した手には、ピカピカ光っているカブトムシが握られていた。
「見ろよ!浄華の頭に止まってたんだ!」
飛んでいった先が何故か浄華の頭だったらしい。浄華は信じられなくて自分の頭を触った。
「・・・はは」
「あははっ」
怪我してまで捕まえようとしたカブトムシが簡単に捕まえられたことか、滅多にないところにカブトムシが止まっていたことか。理由はよく分からないが二人はおかしくなって笑い出した。
にほんブログ村