次の日の朝、
不安を抱えながら
いつもより早めに
家を出ました。


佐々木さんの言うとおり、
何事もなく、
いつものスタンドに着くと
彼はもう待っていました。

見慣れないスーツ姿。
今まで作業着の姿しか
見ていなかったので
意外な姿にドキッとしました。

適当に車を停め、
車を降りると
自分の車の方に
歩いていきました。
ぼーっとしていると

『ほら、早く乗って。
遅刻しますよ。』

運転席から声をかける彼。


私は慌てて荷物を持ち
ゆっくりドアを開けました。
そして、小さな声で
『お邪魔します…』
と、呟くと
『いつもの元気ないね?
あ、もしかして朝苦手?』


私が緊張しているのを
知ってか知らずか
色々と話してくれました。


私の職場に着くと
『じゃ、夕方4時頃だよね。
あ、携帯教えとくから
携帯に直接連絡して。』


渡された名刺を見ると
ボールペンで携帯の番号が
書き足してありました。


『ちゃんと登録しといてね。
じゃ、行ってらっしゃい』


いつも以上にこの日は
テンションが高くて
マスクをしていなければ、
にやけてるのが
ばれていたかも知れません。





『落ち着いて話してごらん』


優しい口調に少しずつ
私は冷静さを取り戻し、
事情を話しました。


『今、どの辺りかな?
戻って来れそうなら
いつもの店にすぐ戻るよ』


やっぱりこの人は
優しいんだと思いました。


しかし、今、居るのは
お店から20分以上
走ったところ…。
家に戻るのにも20分近く
かかるようなところでした。
それを伝えると


『そうしたら、明日の朝、
仕事の前にスタンドに
寄ることは出来るかな?
車を預かって、
よく見てあげるから。
話の限りだとね
すぐに車が壊れるとかは
ないはずだから。』


翌日の朝
スタンドで待ち合わせをして
職場に送っていき、
仕事が終わる頃、迎えに行く。
で、具体的に何を直すか
説明するようにしよう。

と、提案されました。

途中で何かあったらと
不安はありましたが
朝、車が止まっても
そこまで迎えに行くからと
約束もしてくれました。




教えて貰った番号を
ダイヤルする手は
震えていました。


呼び出し音を鳴らしましたが
なかなか電話に出ません。
諦めて電話を切ろうとした時


『おまたせいたしました、
ガソリンスタンド△△店
佐々木が承ります。』


【佐々木さんだ!】
今にも泣きそうな声で
名前も名乗らずに
『佐々木さん!どうしよう』



『えっと…どーしましたかね
どちら様ですか?』


名前を名乗ろうとしましたが
私は大切なことに
気がつきました。


【名前を名乗ったことがない】


話は沢山していましたが
私は自分の名前を名乗るのを
忘れていたのです。


『えっと…
〇〇と言うんですが
あの…4日前のスタンドで』


『あっ!いつもの!!』
ビックリしたんだと思います。

私が何でこっちにいることを
知っているのかとか
聞きたいことは沢山あったと
思います。


でも、彼は何も言わずに
『どーしました?
何かあったかな?』と
優しく聞いてくれました、