26年予備論文 民事実務基礎 答案 | magaterの予備試験勉強記録

magaterの予備試験勉強記録

とある予備試験受験生の勉強記録です。
受験仲間に競争心と仲間意識とやる気と勇気を!
※合格してないので格好良い法律記事は書き(け)ません。

設問1

(1)について

 被告は、原告に対し、甲土地につき、平成15年12月1日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ

(2)について

 贈与契約に基づく所有権移転登記請求権は、債権的登記請求権である。債権的登記請求権は、物権の移転を目的とする契約において、その効果である財産権移転義務の一内容として対抗要件を具備させる義務が生じる場合に発生する登記請求権である。そのため、贈与契約の締結(民法549条)から直接その効果が発生する。そのため設問記載の事実は請求原因事実として主張が必要である。

 本件贈与は、書面が作られていないので、書面によらない贈与の規定(550条)が適用される。同条但書は、相手方の撤回権に対して、履行が終わった場合はこれが消滅する旨を定める。では、Pが、Yからの撤回を防ぐため、請求原因で履行の終了を主張することが必要か。

 主張立証責任は、公平の観点から法律効果により利益を受ける側に負わせるべきである。そうであれば、書面によらない贈与と、その撤回の意思表示は、相手方であるYが主張するべき抗弁事実となる。また、法律要件分類説では、原則として、法律の立て付けによって主張立証責任の所在が決まる。そのため、550条但書は抗弁事実たる同条本文に対して、再抗弁事実にあたる。

 以上より、Pの主張するべき請求原因事実は、設問記載の事実のみで足りる。



設問2

(1)について

 [ア]は、「Xは、平成25年12月1日経過時、甲土地を占有していた。」

 [イ]は、「甲土地について、Y名義の所有権移転登記がある。」


(2)について

(ⅰ)追加された訴えの訴訟物は、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求である。その請求原因事実は、Xの甲土地所有、⑤Y名義の所有権移転登記の存在、である。⑤について、物権に対する妨害状態が存在する限り、物件的妨害排除請求権は不断に生じるため、相手方の登記名義が現在存在することを主張立証する必要がある。

(ⅱ)Xの甲土地所有には争いが生じており、Xの所有権を基礎付けるため、Xは短期取得時効(民法162条2項)の成立により、所有権を原始取得したことを主張することができる。

 同項は、「10年間」「物を占有した」を要件とする。民法186条は、前後の両時点における占有により、その間の占有継続を推定する規定である。よって、①ある時点で占有していたこと、と②①の時点から10年間経過した時点で占有していたことを主張立証すれば、10年間の占有継続が法律上推定される。相手方は、10年間のいずれかの時点でX占有が途切れることを立証するか、①②の事実を真偽不明とすることでこの立証を崩すことができる。設問記載の事実は①②に該当する具体的事実である。なお、初日不算入の原則(民法140条)から、時効期間の起算点は占有開始日の翌日となる。

 さらに、占有の開始が主張立証されると、民法162条2項の「所有の意思」「平穏かつ公然」「善意」が法律上推定される(民法186条1項)。そのため、Xがこれらを主張立証する必要はない。「他主占有事情」「他種占有権限」「強暴」「隠ぴ」「悪意」は相手方の主張立証するべき抗弁事実ある。また、自己物の時効取得が認められることから「他人の物」であることの主張立証は必要ない。

 民法162条2項の残りの要件は、「過失がな」いことであり、過失は規範的要件であるため、Xは設問記載の③の事実の主張が必要である。

 最後に、設問記載の④の主張は、民法145条で援用が求められることから主張が必要である。なお、実体法上、時効期間が経過しても当然にその法律効果は発生するものでなく、援用の意思表示が停止条件と考えられる。そして、④は時効援用の意思表示を基礎付ける事実と認められる。

 従って、①②③④⑤のそれぞれの主張が必要であり、かつこれで足りる。

 

(3)について

 Xが固定資産税等を支払っているのは平成16年からである。無過失が要求されるのは、占有開始時である。Xの占有開始時は平成15年12月1日であるため、その後に開始された固定資産税等の支払いは無過失の評価根拠事実として主張することができない。



設問3

 Qは、他主占有権限の抗弁を主張することとなる。これは、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権において、Xの甲土地所有を基礎付ける取得時効の請求原因事実たる「Xが占有を開始したこと」に関する抗弁である。Xの占有の主張立証によって、Xの「所有の意思」(162条2項)が法律上推定される(民法186条1項)ため、占有の意思がないこと(他主占有であること)は相手方が主張立証責任を負うためである。



設問4

(1)XがYに「甲土地はお前のだ」「ただでやる」と述べたことは、Xが甲土地の贈与を受けたことを直接立証する事実である。これに対して、①この証言が行われたのは10年前であって、記憶の正確性が疑わしい、②Xは訴訟の当事者であり証言の真実性の有無について直接の利害関係人であり信用性が低い、③移転登記をしておらず、贈与税の申告もしていないという、動かしがたい事実と不整合がある、との反論が可能である。


(2)Xが新築建物の建築費用3000万円の全てを支払ったことは、甲土地を支配していることの現れであり、Xが贈与を受けたことを推認させる間接事実である。これに対して、甲土地所有者と甲土地上に同居している限り収去のリスクはほぼ考えられないため建築費用を全てだしたからといって、Xが贈与を受けた理由とはならないとの反論が可能である。


(3)Xが平成16年から固定資産税を支払っていることはXが贈与を受けたことを推認する間接事実である。これに対して、XYは親子であり、退職間近であるYに代わって、将来的にも資力の安定したXが固定資産税を納めることは充分考えられることである、との反論が可能である。


(4)Xが権利証を保管していることはXが贈与を受けたことを推認する間接事実である。これに対して、Yが死亡した後、甲土地は通常、Xが持分を相続するのであり、死亡に備えて事前に権利証を交付しておくのは不自然ではなく、むしろ、夫婦でいるXらに権利証によって保管されるほうが、紛失等のリスクを回避できるというメリットであるため、贈与があったとする理由にはならないと反論が可能である。


(5)Xに対する移転登記手続をしていないことは、Xが贈与を受けた事実を真偽不明に追いやる間接事実である。これに対して、XYは甲土地上に同居することになっていたため第三者が現われる可能性が極めて低く、登記の必要がなかった、との反論が考えられる。

 しかし、登記を移転せずYが死亡した場合、甲土地が相続財産に含まれるか否かで紛争が発生するリスクがあり、第三者の出現の可能性如何にかかわらず登記の必要性はあったはずだ、との再反論が可能である。


(6)Xが生活していた不動産が目的物であることは、Xが贈与を受けた事実を真偽不明においやる間接事実である。これに対して、XはYのために自己の資力で二世帯住宅を建築し、固定資産税も納め続けているため、このようなXの負担は、公平の観点から不動産が無償で譲渡されたことの現れであるとの反論が考えられる。

 これに対して、公平か否かにかかわらず、Xが元来妻と生活していた土地を手放すのは考えにくいとの再反論が考えられる。



設問5

(1)Qは、YがXに甲土地の所有権移転登記手続を行うことを内容とした和解勧告を受け、Yと協議せずにこれを成立させた。YはXの甲土地の所有権移転登記請求権が不存在であると考えて応訴しているため、この和解はYの意思に背き得る。よって、弁護士職務基本規程22条1項の「依頼者の意思の尊重して職務を行もものとする」との規定に違反する疑いがある。

 また、当該和解は、「事件の帰趨に影響を及ぼす事項」(同36条)にあたる。Qは、同条により、Yへ「報告」し、Yと「協議しながら事件の処理をすすめなければならない」にもかかわらず、これを怠ったという問題がある。

(2)Qは、和解によってYに支払われる1500万円をXから受領し、その金銭より成功報酬を差し引いている。当該受領は「事件に関して」「相手方」「から金員をあずかったとき」(同38条)に該当するため、「自己の金員と区別し、預かり金であることを明確にする方法で保管し」なければならない。この趣旨は、弁護士の横領を防ぐことにある。預かり金から成功報酬を差し引くことは、弁護士による横領を容易にする危険があり同条によって防止されるべきである。よって、Qの前述の行為は同条違反の疑いがある。


以上