3省合意で新たに定義づけられたインターンシップ。転換点。何に気を付けなければならないのか?

政府によるインターンシップの新たな定義づけと変更

 今日、「早期インターンシップ」「デザイナーインターンシップ」「研究インターンシップ」などなど、インターンシップの言葉はとてもなじみになってきています。私自身も、学生さん達に日々、「実社会や産業社会に接する体験ができる機会なので、インターンシップにできるだけ取り組んでみてください」と口にするところです。
 ところで、2022年6月のインターンシップに関する3省合意(文部科学省、厚生労働省、経済産業省「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る
取組の推進に当たっての基本的考え方」)によって、新たに4つの類型の分類がなされて、新たな定義づけがなされました。

    
インターンシップに関連する定義と4つのタイプ
 具体的には、上記の文書に基づいて少しかみ砕きながら見てみますと、次の4つのタイプとなります:
【タイプ1「オープン・カンパニー」】
 企業や就職情報会社が主催するイベントや説明会を対象としています。参加期間は1日(短日)の長短

期であり、就業体験は含まれません。取り組みの性格としては、「会社・業界の情報提供・PR]の側面が強いとされます。
【タイプ2「キャリア教育」】
 主に企業がCSRとして実施するプログラムや、大学が主導する授業や産官学プログラムで実施される。就業体験は任意で設定できる。取り組みの性格としては、教育にウェイトがあります。
【タイプ3「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」】
 このプログラムでは、参加者が「自らの能力の見極め」を就業体験で行うことに力点があります。そうしたことから、参加期間は5日以上(汎用的能力型)、ないし2週間以上(専門活用型)であり、対象は学部3年・4年生や修士1年・2年生で、長期休暇中に行われ、就業体験は不可欠であり、実施場所は「職場」ということが条件づけられています。かつまた、インターンシップ期間中は、職場の社員が学生を指導し、インターンシップ終了後にフィードバックを行うことがさらに条件として求められます。
【タイプ4「(試行)高度専門型インターンシップ」】
 高度な専門性やスキルを求められる業務に従事する学生向けの試験的なインターンシップ。就業体験は必須。「ジョブ型研究インターンシップ」などが想定されているます。
 特に、かつてひとまとめにインターンシップと称してきたものは、あらためてタイプ1~4として、「キャリア形成支援の取組であって、採用活動ではない」という位置づけがなされるに至ったということです。
 ポイントとしては、特に、ルールとして、企業が採用につなげてよいのはタイプ3と4のみになります。(そのためタイプ3と4では、企業が取得した学生情報を採用活動に活用することも可能となります。)気を付けなければならないことは、逆に、「タイプ1と2では、採用につなげてはいけない」ということになりました。 

なぜ、「インターンシップに関する3省合意」が行われたのか? その問題意識
 でも、なぜこうしたタイプ分けがなされるようになったのでしょうか?
これについて、3省合意の基ともなった「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」(日本経団連と大学関係団体代表者から構成)が次の点を指摘しています。
⃝ 現状、「インターンシップ」という名の下に、様々な目的・形態・期間等のプログラムが実施され、学生の間で混乱や焦りを招く一因となっています。
⃝ 特に学生は、採用に直接つながると期待して、業務を全く体験しない「インターンシップ」と称する短期プログラムに参加しているのが実情です。学業が疎かにされているとの批判もあります。
⃝ インターンシップは、1990年代後半に政府が主導する形で、専ら「教育目的」として導入されたのであり、インターンシップ本来の機能である「学生のキャリア形成支援」が十分に発揮されているとはいえません。


 インターンシップの名のもとに、業務を体験しないものがあったり、学生の間で混乱や焦りを招いたり、そして企業の採用活動の場となってしまっているという強い問題意識があることがうかがわれます。

その後も垣間見える混乱 ~タイプ1・タイプ2の「カオス化」
文科省のインターンシップ政策に関わられてきた松坂政先生(京都産業大学)は、目下、現状として企業の体力などの問題から、中小企業の多くでタイプ3の「インターンシップ」から撤退して、お手軽なものとしてタイプ1「オープンカンパニー」やタイプ2「キャリア教育」にシフトする怖れがあって、実際に、本来採用につなげてはいけないはずのタイプ1のオープンカンパニーが「早期選考の草刈り場となりつつある」との懸念を示しておられます。本末転倒です。
 実は、大学側も、就職実績の向上ということが学生募集きわめて大切であることから、本来の意味合いよりも、企業がやってくれるものにタイプ1であれ、2,3であれ、それで進めてもらった方が「コスパ」がよいと捉える向きがあること(大学側からの、企業への丸投げ)も指摘されておられます。これも、まさに本末転倒と言わざるを得ません。
 本来、学生ファースト、就職希望者ファーストであるべきところを、会社の都合、大学の都合で進めてしまうことには多くの問題があります。そしてそれは、企業に就職したけれど、オープンカンパニーでの印象とは異なった職場に幻滅して「早期離職」が多出してしまうという、結果に跳ね返ることとなります。

 



余裕のない中小企業、余裕のない大学
 他方、中小企業では、インターンシップは人事・総務全般の仕事のうちの一つにすぎず、できるだけ時間と労力を割きたくない、ないし避けないという事情がある!という声も伺います。余力や資源の乏しい職場でキリキリでやっているのに、インターンシップにそんなに手間暇をかける余裕はない!というのが多くのところでの本音でもあります。それもその通りだと思います。

会社を整備する絶好のチャンス ~山形大学の試みより
 でも、これを機に、会社自体を、自らの環境を整え・制度体制を整えて、業績アップにつながる手法があります。実は、山形大学のキャリア教育センタのセンター長の松坂暢浩先生は、1年生インターンシップの授業で10年ほど進めてこられ、大学1年生を80名ほど数日にわたって中小企業の「インターンシップ」(現在のオープンカンパニー)として受け入れてもらうことを推進してこられました。
 その秘訣を先日直接伺ってお伺いしました。そうしますと、やはり中小企業にとって、3年生のインターンシップとはことなって、1年生を受け入れるのは採用につながらないので、負担感があります。けれども、企業が受け入れると学生さんたちは「なぜ働くのですか?」「よい職場とは?」「やりがいとは?」と根源的な疑問や質問を投げかけます。そうすると、社内で、スタッフに自らの働きのありかたを内省したり、職場環境を整えようとする雰囲気が現われるとのことで、3年で大きく変わり、良い人を採用できるようになるとのことです。(大学生が採用できなかった中小企業が、この整備の結果、大学生の採用ができるようになる、早期離職が減るという、大変に説得的なデータを松坂先生は示しておられます。)これにより、中小企業80社が受け入れに前向きになっているという状況があるのです。(このことは、別の項目としてきちんとお話したく思います。)

「暗転のループ」と「好転のループ」
 要は、コスパ重視のあまり、採用活動を早く終わらせるべく焦ると、採用後、早期離職がたくさん出てしまうという顛末ですが、それに対して、学生にきちんと向かい合って、働く人ひとり一人が良い職場と思える環境を整備しようとすると(3年ほどかかりますが)、採用後早期離職の激減するといった大変に大きな意味があるということになります。(これを「暗転のループ」と「好転のループ」として次のようにしたためてみました。)

 ✕ 暗転のループ
   「コスパ」重視(ともかく成果を出さねば)→焦った採用活動 → 採用後、早期離職の多出
 ● 好転のループ
    社内の整備(よい職場)→じっくりと学生・社員が向かい合う →採用後早期離職の激減


 実は、インターンシップなどをめぐって、まさに今、企業、大学がともに本来の良い方向に変わることを呼びかけられてるところだということになります。このことは、私たちにとって大変に大きなことと捉えています。私自身、大学人としてまたキャリアデザインセンター長として肝に銘じなければと身が引き締まる思いです。(なお、米国のインターンシップの記事でお話しましたように、それを地域社会の連携・ローカルガバナンスとして支える仕組みがあると更に効果的だということがあります。)


 私たちは、これまでにない大きな転換点に立っているのかもしれません。


 今日は、ここまで。引き続きよろしくお願いいたします。感謝 前山(s-maeyama@fcu.ac.jp)

<参考>
・採用と大学教育の未来に関する産学協議会「産学で変えるこれからのインターンシップーー学生のキャリア形成支援活動の推進ー」
・文部科学省、厚生労働省、経済産業省「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」(2022年6月)
・松坂政「大学教育を変える、未来を拓くインターンシップⅢ 日本から『インターンシップ』がなくなる日」『文部科学教育通信』No.574,2024年